名建築は、最初から名建築ではなかった

落水荘とファンズワース邸が教えてくれる、挑戦する建築の難しさ

「名建築」と聞くと、多くの人は完成された作品を思い浮かべます。
建築雑誌に掲載される美しい写真。世界中から見学者が訪れる建物。建築史に残る傑作。

しかし、それらの建築は最初から誰もが称賛したのでしょうか。
実は、多くの名建築は、完成当時には賛否が分かれ、時には大きな批判やトラブルを抱えていました。
新しい価値を生み出す建築ほど、最初は理解されにくい。

建築の歴史は、その繰り返しでもあります。


落水荘は「滝を見る家」ではなかった

1935年、フランク・ロイド・ライトは、ペンシルベニア州の山中に一つの住宅を設計しました。
現在、「落水荘(Fallingwater)」として世界的に知られる住宅です。
一般的な設計なら、滝がよく見える場所に建物を建てるでしょう。

しかしライトは違いました。
「滝を見る家ではなく、滝の上で暮らす家。」
その発想から、建物は滝の真上へと張り出しました。

巨大なキャンチレバー。岩盤と一体化した構造。
自然を「眺める」のではなく、「自然の中で暮らす」という思想。

当時としては非常に大胆な建築でした。
そのため、施工中には構造への不安も生まれました。

設計どおりで本当に安全なのか。
現場では議論が続き、施工会社は設計者に無断で鉄筋を追加したというエピソードも残されています。
それほど、この建築は常識を超えていたのです。

しかし現在、落水荘は世界文化遺産となり、20世紀住宅建築を代表する作品として世界中から高く評価されています。
当時は「尖りすぎ」と言われた建築が、時代を超えて名建築になったのです。


ファンズワース邸は「価値」を問いかけた住宅だった

もう一つ、近代建築を代表する住宅があります。
ース・ファン・デル・ローエが設計したファンズワース邸です。
まるでガラスだけでできているような透明感を持つこの住宅は、世界中の建築学生が学ぶ近代建築の傑作として知られています。
しかし、この住宅には、名建築だからこその葛藤がありました。
建築費は当初の想定を大きく上回り、完成後も「夏は暑く、冬は寒い」「虫が入りやすい」「暮らしにくい」といった不満が施主から示されました。
その結果、施主であるエディス・ファンズワース博士とミースは、建築費などを巡って法廷で争うことになります。

さらに興味深いのは、計画当初、二人は非常に親しい関係にあったといわれていることです。
恋愛関係だったという説もありますが、真偽については現在も議論があります。

もし深い信頼関係があったのだとすれば、ミースは単なる依頼住宅ではなく、自らが理想とする住まいを実現したいという想いを、より強くこの住宅に込めたのかもしれません。
しかし、建築家が追い求めた理想と、施主が日々暮らす現実との間には、少しずつ距離が生まれていきました。

ただ、この住宅は「失敗作」だったのでしょうか。
そうとも言えません。
エディス・ファンズワースは、訴訟の後もこの住宅を約20年間、週末住宅として使い続けています。
もし本当に耐えられない住宅だったのであれば、もっと早く手放していたかもしれません。
一方で、完全に満足していたのであれば、裁判にはならなかったでしょう。

そこには、「好き」と「不満」が同時に存在していたのだと思います。
そして皮肉なことに、この住宅は現在、世界でも屈指の歴史的名建築として高く評価されています。

建築史における成功と、一人の施主にとっての満足は、必ずしも一致しない。
ファンズワース邸は、そのことを私たちに教えてくれる住宅なのです。

建築は、対立ではなく対話で完成する

落水荘も、ファンズワース邸も、完成まで決して順風満帆ではありませんでした。
しかし、それは「建築家が正しく、施主が間違っていた」という話でも、「施主が正しく、建築家が独善的だった」という話でもありません。

新しい価値を生み出そうとすれば、必ず議論が生まれます。

理想と現実。
芸術性と実用性。
予算と品質。

建築とは、その答えが一つではない世界です。
だからこそ、建築は建築家一人では完成しません。

オーナー、設計者、施工者、運営者、管理者。
それぞれが異なる立場から意見を出し合い、「この建物にとって何が最善なのか」を探し続ける営みです。
本当に重要なのは、「誰が正しいか」を決めることではありません。

その建物の価値を、どうすれば最も高められるのか。

そして、
オーナーは、その建物に何を本当に求めているのか。
その問いに、関係者全員が向き合うことではないでしょうか。

ファンズワース邸は、裁判になった住宅として語られることが少なくありません。
しかし私は、それ以上に、建築とは多様な価値観を一つの形へとまとめ上げる営みであることを教えてくれる住宅だと思っています。

だからこそ、70年以上経った今もなお、私たちはこの住宅について語り続けているのです。


私たちは、挑戦を否定しません

CUSTOM BUILDでは、最初から「無難」を正解にはしません。
必要なら、大胆なデザインも選びます。新しい素材も選びます。
世界的な建築家への相談も選択肢になります。

しかし同時に、法令、安全性、事業性、運営性、維持管理、将来の修繕。
これらも同じくらい大切に考えます。
挑戦だけでもない。保守だけでもない。
その建物にとって、本当に意味のある挑戦かどうか。
そこを判断することが、私たちの役割です。


「程よく創る」とは、挑戦を恐れないことでもある

「程よく創る」という言葉は、
控えめに創るという意味ではありません。

建物には、挑戦した方が価値を高められる場面があります。
逆に、堅実であることが価値になる場面もあります。
私たちは、その違いを見極めたいと考えています。

落水荘も、ファンズワース邸も、完成した瞬間から名建築だったわけではありません。
理解されるまでには時間がかかりました。
議論もありました。批判もありました。
それでも、建築として挑戦した価値は、時代を超えて残りました。

私たちもまた、流行や常識だけに流されることなく、
その建物にとって何が本当の価値なのかを考え続けたいと思います。

「程よく創る」とは、挑戦しないことではありません。

挑戦する価値があると判断したなら、その挑戦を支えること。

それもまた、CUSTOM BUILDが考える「程よく創る」です。

執筆:プロパティー・パートナーズ株式会社
営業本部 クリエイティブディレクター
監修:建築技術部

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