募集資料は最初にベストを尽くす

はじめに~最初から募集資料に手間をかけてますか?

不動産募集で、よく見られる失敗があります。
暗く歪んだ写真、分かりにくい図面、最低限の物件概要だけで募集を始める。
反響が弱い。内覧も少ない。

そこでようやく、写真を撮り直したり、募集資料を整えたりする。
それでも決まらないと、賃料を下げる。
この流れは、不動産業界では昔からよく見られるものです。

しかし、他の業界で考えれば、かなり不思議なやり方です。
商品を売るときに、最初から魅力が伝わらない写真や資料で売り出す業界は、ほとんどありません。

本来、不動産も同じです。
物件も市場に出す以上、検討者に選ばれるための商品です。
それにもかかわらず、不動産業界では、暗く、歪み、物件の印象を大きく損なうような写真が、そのまま募集に使われてきました。
特に写真については、営業社員が現地で撮影したままの画像が、ほとんど補正も整理もされず、募集資料やポータルサイトに掲載されているケースが少なくありません。
これは、単に写真の見栄えが悪いという問題ではありません。
本来伝わるはずの物件の価値を、写真によって下げて見せてしまっているという問題です。

その背景には、不動産業界特有の構造があります。

目次

なぜ、不動産では販促資料づくりが素人仕事になるのか

他業界の商品は、多くの場合、同じ商品を何度も販売します。
そのため、広告写真、コピー、パンフレット、販売ページなどに予算をかけます。
カメラマン、デザイナー、コピーライター、広告代理店など、プロの力を使うことが当たり前です。
良い広告を作ることが、売上全体に大きく影響するからです。

一方、不動産は基本的に「一件ずつ決まれば終わり」の商品です。
ひとつの区画、ひとつの住戸、ひとつの物件が決まれば、その募集は終わります。
そのため、一般的な賃貸募集や売買募集では、ひとつの物件のために大きな広告予算をかけにくい構造があります。
結果として、広告制作という点では素人とも言える営業社員、あるいはその補助スタッフの社員が現地で写真を撮り、図面を整え、募集資料を作ることになります。

もちろん、当時は、これらの営業社員がやる気が無いという話ではありません。
それが当たり前の業界だったからです。
問題は、写真撮影や広告制作の専門家ではない人が、物件の第一印象を決める販促広告資料まで担ってしまうという、他業界では殆どありえない、不動産仲介独特の構造にあります。

この構造と大きく違うのが、新築分譲マンションです。
分譲マンションは、一棟の中に多数の住戸があります。同じプロジェクトとして多くの戸数を販売するため、最初から広告宣伝費を組み、豪華なパンフレット、モデルルーム、販売用サイトをプロに制作してもらうことが一般的です。
つまり、不動産業界でも、広告費を回収できる仕組みがある場合には、プロによる広告づくりが行われています。

問題は、一般的な一棟ビル、賃貸区画、戸建、区分、収益物件などでは、その仕組みが働きにくいことです。
だからこそ、限られた予算の中でも、物件の価値を下げて見せない工夫が必要になります。

募集資料には、2つの役割がある

不動産業界で使われる募集資料には、大きく分けて2つの位置づけがあります。

ひとつは、宅建業法上の重要な情報を整理した「物件概要書」としての役割です。
所在地、面積、用途地域、構造、築年数、賃料、管理費、契約条件、取引態様など、物件を判断するために必要な情報を正確に伝える資料です。

もうひとつは、「営業広告」としての役割です。
物件の特徴を伝え、興味を持ってもらい、問い合わせや内覧につなげるための資料です。
いわゆる募集広告、営業パンフレット、販促資料、マイソクなどは、本来この2つの役割が合体したものだと考えるべきです。
正確な情報を載せるだけでは足りません。
かといって、魅力的に見せることだけを優先して、実態と違う印象を与えてもいけません。

もちろん、優良誤認をさせるような誇大広告違反はできません。
しかし、それでも「広告」はやはり「魅力を伝えてこそ」の広告です。
必要なのは、正確な情報と、物件の魅力が伝わる見せ方の両立です。

募集資料は、単なる物件情報の一覧ではありません。
検討者に「この物件を見てみよう」と思ってもらうための、最初の営業接点でもあります。

物件概要書をそのまま募集資料にしていないか

実務では、仲介業者間に情報を流すための物件概要書を、そのまま募集資料として流用しているケースがあります。
もちろん、物件概要書としてはそれで足りる場合もあります。
業者間で情報を共有するだけであれば、所在地、面積、賃料、条件、図面などが整理されていれば、最低限の役割は果たせます。しかし、それをそのまま借主や購入検討者に見せる資料として使うと、物件の魅力が伝わらないことがあります。

・写真が暗い。
・間取り図が分かりにくい。
・空間の使い方が想像できない。
・物件の特徴が整理されていない。
・ただ条件だけが並んでいる。

これでは、資料としては存在していても「営業広告」にはなっていません。
募集資料は、単なる情報伝達の紙ではありません。
検討者に「問い合わせてみよう」「一度見てみよう」と思ってもらうための入口です。

この入口が弱ければ、物件そのものを見てもらう前に、検討対象から外されてしまいます。

実際にあった、新築デザイナーズ物件での経験

私自身にも、募集資料の重要性を強く感じた経験があります。
ある新築のデザイナーズ物件を建てたときのことです。
駅から近く、新築でもあり、やや強気の賃料設定ではありました。
しかし、周辺相場を踏まえれば、決して無理な条件ではありませんでした。

その物件を、大手の著名な不動産会社に専任元付として任せました。
ところが、住居区画がまったく決まりません。
数か月が経過しても、思うような反響がありませんでした。
募集状況を確認すると、使われていたのは、新築デザイナーズ物件とは思えない写真でした。
暗く、歪み、どこか中古物件のように見えてしまう写真です。
それをレインズと自社の募集サイトに並べているだけでした。
今振り返れば、これは当時の不動産業界ではよくあるやり方でした。

しかし、私はそのとき強く感じました。これはおかしい、と。
そこで、当時としてはまだ珍しかったステージングを行いました。
レンタル家具を入れ、モデルルームのように整え、プロカメラマンに撮影を依頼したのです。
費用はかかりましたが、写真と見せ方を変えた効果はすぐに出ました。
住居区画は、あっという間にすべて成約しました。
最初から実施していれば、空室期間に失われた賃料で、ステージングと撮影の費用を十分に回収できたはずです。

この経験は、私にとって大きな転機になりました。
物件が悪かったのではありません。
賃料設定が問題だったのでもありません。
伝え方が、物件の価値を下げていたのです。

このとき以来、私は「暗い写真と最低限の資料を出して、あとは仲介業者任せ」という業界慣習を、そのまま受け入れないようになりました。
当時は、低コストでプロ品質の写真を発注できるサービスも、CGステージングも、AIもありませんでした。
それでも、一眼レフで広角撮影し、写真の歪みや明暗、コントラストを補正するだけで、写真の印象は大きく変わります。
必ずしも毎回プロに外注できなくても、自分たちで改善できることはあります。
私はその方法を部下にも教え、見栄えの悪い写真のまま募集しないことを徹底してきました。

今は、写真外注、CGステージング、AIなど、当時よりも選択肢は増えています。
だからこそ、昔ながらのやり方を続ける理由は、ますます少なくなっているのです。

ただし、ここにも一つ問題があります。
プロレベルの撮影が安く外注できる時代になったからと、全て丸投げして、写真さえ綺麗ならいい、ということではありません。
この点は、別の記事で説明します。

写真を外注できても物件を見る目は外注できない

最初の印象で、検討対象から外される

不動産は、現地を見れば分かる商品です。
しかし、現地を見る前に、まず資料で判断されます。
「どうせ最後は現地を見るのだから、写真や資料は最低限でよい」
そうした考え方は、不動産業界では長く当たり前のように残ってきました。
しかし、それは合理的な判断というより、長年の業界慣習に慣れすぎた発想です。

今は、現地を見る前に、そもそも検討候補に入るかどうかが決まります。
写真が暗い。歪んでいる。使い方のイメージが湧かない。図面が分かりにくい。弱点が整理されていない。
その状態では、現地を見る前に候補から外されてしまう可能性があります。
つまり、募集資料は「現地案内の前座」ではありません。
検討の入口そのものなのです。

特に、インターネット上で複数の物件が一瞬で比較される時代では、最初の見え方が重要です。
検討者は、ひとつひとつの物件を丁寧に読み込んでくれるとは限りません。
最初の数秒で「良さそうか」「違いそうか」を判断されます。
その段階で魅力が伝わらなければ、現地を見てもらう前に終わってしまいます。

さらには、仲介会社もマイソク、募集資料で魅力の無い物件よりも、決まりそうな魅力ある物件を優先的に顧客に見せます。
決めれば手数料をもらえるのですから、顧客が食いつきそうな物件を、何枚もの候補からスピーディに探す必要があるため、マイソクの見栄えの良しあしは、「紹介されやすくなる」という点でも重要です。

募集資料を整えると、判断が早くなる

募集資料を最初から整える意味は、単に見栄えを良くすることではありません。
市場の反応を正しく見るためです。
写真、図面、物件の特徴、使い方のイメージ、弱点の整理。

これらを用意したうえで募集を始めれば、反響が弱かった場合でも、原因を切り分けやすくなります。
・賃料が高いのか。
・募集条件が合っていないのか。
・ターゲットがずれているのか。
・それとも、物件そのものに改善すべき課題があるのか。

一方で、資料が不十分なままでは、反響が弱い理由が分かりません。
本来は伝え方を整えれば改善できた物件でも、魅力が伝わらないまま時間だけが過ぎてしまいます。
その結果、必要以上に賃料を下げる判断に進んでしまうこともあります。

もちろん、賃料を見直すことが必要な場合もあります。
しかし、その前に、物件の価値が正しく伝わっているかを確認するべきです。
募集資料で実態以上によく見せる必要はありません。
優良誤認につながる表現や写真は避けるべきです。
しかし、実際より悪く見える写真や、魅力が伝わらない資料をそのまま使うことも問題です。

後から資料を整えるのではなく、最初から判断できる状態で市場に出す。
それが、空室期間を短くし、物件の価値を守るために必要な準備なのです。

まとめ~募集資料は、リーシング戦略そのものである

■物件条件だけではなく、見せ方も判断材料になる

不動産募集では、物件そのものの条件が重要です。
立地、面積、賃料、築年数、設備、管理状態。
これらは当然、検討者にとって大切な判断材料です。
しかし、それと同じくらい、最初の見せ方も重要です。
募集資料は、単なる物件概要書ではありません。
正確な情報を伝える資料であると同時に、物件を検討してもらうための営業広告でもあります。

■募集資料で考えるべきこと

物件をどう見せるか。
誰に届けるか。
どの特徴を前面に出すか。
どの弱点をどう説明するか。
どのような判断材料を用意するか。

これらは、リーシング戦略そのものです。

■資料作成を任せても、責任は営業担当者にある

営業担当者が、自ら資料を作らないケースもあります。
社内に営業資料の作成担当がいれば、写真の補正、図面の整理、レイアウト、デザインなどを依頼することもあるでしょう。
しかし、資料の内容に対する責任は、あくまで営業担当者にあります。
資料作成を任せることと、資料の方向性まで丸投げすることは違います。

・募集条件を正確に記載するだけでなく、この物件をどう見せるか。
・どの特徴を前面に出すか。どの弱点をどう伝えるか。
・どのような検討者に届く資料にするか。

そうした広告としての見せ方は、営業担当者自身が責任を持って考えるべきです。

■資料づくりは、物件理解を深める作業でもある

募集資料を本気で考えると、物件のことが改めて見えてきます。
強みも、弱点も、使い方の可能性も、想定すべきターゲットも整理されていきます。
その中で、ただ条件表を作っているだけでは生まれない気づきやひらめきが出てくることがあります。
だからこそ、募集資料の品質を一般仲介業者任せにすることには限界があります。

■決まらないから整える、では遅い

決まらないから、後から写真やデザインを見直す。
この順番では、すでに機会損失が生まれています。

決めるために、できることは最初から整える。
そのうえで反響が弱い場合には、資料の見せ方ではなく、賃料、条件、ターゲット設定、物件そのものの課題を見直す。
それが、本来の不動産募集に必要な考え方です。

執筆:プロパティー・パートナーズ株式会社
営業本部 クリエイティブディレクター

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