はじめに~あなたは弱点や欠点を後出しする派ですか?
不動産営業では、物件の欠点や弱点をいつ伝えるべきか、という問題があります。
昔は「悪いところは後で言えばいい」「まずは物件を見てもらえばいい」という考え方の営業マンも少なくありませんでした。
私も若い頃、いわゆる「仲介のプロ」を自称する先輩たちから、
「そういうのは最後に言えばいいんだよ」
という話を何度も聞きました。
確かに営業のテクニックとして考えれば、一理あるのかもしれません。
実際に物件を見ているうちに印象が良くなり、多少の欠点なら気にならなくなることもあります。
いわゆる「あばたもえくぼ」という考え方です。
しかし、私は昔からこのやり方が好きになれませんでした。
以下に書くことは、あくまでも私個人の考えで、唯一絶対ではありません。
目次
欠点や弱点はいずれ必ず伝わる
不動産の欠点、弱点には様々なものがあります。
- 駅から遠い。
- 日当たりが弱い。
- 道路付けに難がある。
- エレベーターがない。
- 室内に使いにくい柱がある。
- 用途地域や法規制に制約がある。
こうした内容は、重要事項説明で説明しなければならないものもありますし、現地を見れば誰でも分かるものもあります。
つまり、欠点は最終的に必ず伝わります。
問題は「伝わるかどうか」ではありません。
「いつ伝えるか」です。
後から伝えると、欠点以上の問題になる
欠点そのものを気にするお客様もいます。
しかし、それ以上に問題になるのが、
「なぜ最初に教えてくれなかったのですか?」
という感情です。
この瞬間、お客様が疑い始めるのは物件ではありません。
営業担当者です。
一度失われた信頼を取り戻すのは簡単ではありません。
不動産は高額な取引です。
お客様は物件を買う前に、人を信用して判断しています。
だからこそ、後出しは避けるべきだと思うのです。
欠点を伝えることは、物件を否定することではない
欠点を先に伝えると、「そんなことを言ったら決まらないのでは?」
と思う人もいます。
しかし、実際には逆です。
大切なのは欠点を隠すことではなく、正しく説明することです。
例えば、
- 駅から少し距離がある代わりに静かな環境が得られる。
- 室内に柱がある代わりに賃料は抑えられている。
- 築年数は経っているが管理状態は良好である。
- 南向きではないが夏場は暑くなりにくい。
欠点には裏返しの価値が存在することもあります。
お客様が知りたいのは、「欠点があるかないか」ではなく、「その欠点を自分が受け入れられるかどうか」です。
その判断材料を提供するのが営業の仕事だと思います。
欠点を隠す営業と、欠点を説明する営業
経験上、本当に信頼される営業担当者ほど、先に言いにくいことをきちんと説明しているように思います。
そして、そのうえで物件の魅力も伝えています。
欠点を隠して案内するのではなく、欠点も含めて理解してもらったうえで、選んでもらう。
一見すると、営業としては不利な進め方に見えるかもしれません。
しかし、結果的にはその方が、成約後の満足度は高くなります。
クレームも減ります。
何より、お客様との関係が長続きします。
もちろん、これは私個人の考えです。
業界の中には、真っ向から反対する人もいるかもしれません。
実際、昔の昭和的な営業感覚がまだ強かった時代には、この考え方をめぐって、ベテラン営業担当者とケンカ腰の議論になったこともあります。
それでも私は、不動産営業において本当に大切なのは、物件をよく見せることではなく、物件を正しく理解してもらうことだと考えています。そのうえで選ばれた物件こそ、長く信頼される契約につながるのではないでしょうか。
不動産業界は、大きなお金が動く業界です。
だからこそ、世間一般の方からは、どうしても「本当に信用してよいのか」という目で見られやすい面があります。
過去には、強引な営業や、都合の悪い情報を十分に説明しない取引が問題視されてきたこともあります。
そうした業界イメージが完全になくなったとは、私自身は思っていません。
だからこそ、私は営業において、できるだけ「悪い情報は先出し」することを大切にしています。
悪い情報を後から知れば、不信感になります。
しかし、先に聞いていれば、それは判断材料になります。
この違いは、とても大きいと思います。
不動産営業は「売る仕事」ではなく「判断を支援する仕事」
私は、不動産営業とは、物件を売り込む仕事ではなく、お客様の判断を支援する仕事だと思っています。
だからこそ、欠点や弱点は後回しにするのではなく、できるだけ早い段階で共有するべきです。
もちろん、伝え方には工夫が必要です。
ただ欠点を並べればよいわけではありません。
しかし、隠すべきではないことは当然です。
問題は、伝える順番と伝え方なのです。
これは、別の記事でももう少し深く書きますが、「現代アートのキュレーション」にもつながる視点です。
同じ物件であっても、どの情報を先に見せ、どの情報を後から補足するかによって、受け止められ方は変わります。
欠点を隠すのではなく、判断材料としてどう位置づけるか。
そこに、不動産営業の編集力が問われるのだと思います。
欠点を先に言える営業は、一見すると、不利なことをしているように見えるかもしれません。
けれども長い目で見れば、その正直さこそが信頼になります。
そして最終的には、選ばれる理由になるのではないでしょうか。













