始めに~棚ぼたの意味は、何もしない幸運ではない
収益不動産のリーシングには、外から見ると分かりにくい現実があります。
長年にわたり高い稼働率を維持していても、なかなか決められない物件はあります。
それは、リーシング担当者の努力不足とは限りません。
人間は神様ではありません。どれほど実績とノウハウを持つリーシングのプロであっても、決められないものはあります。
目次
高稼働率でも、最後の1室が難しい場合がある
多くのビルを保有・運営していると、決めやすい物件と、決めにくい物件が見えてきます。
購入時には「この用途なら貸せるだろう」と考えて取得した物件でも、数年、十数年と保有するうちに、時代や周辺環境が変わることがあります。
特に難しいのは、例えば10室のうち1室だけ空室期間が長引くようなケースです。
その1室が、すでにマーケットアウトしているのか。
それとも、たまたまタイミングが合わないだけなのか。
空室が1室だけだからこそ、偶然の要素が大きく、要因分析は極めて難しくなります。
条件をマーケットインできない事情がある
空室が決まらない理由が、賃料や募集条件にあると分かっている場合もあります。
本来なら、条件を市場に合わせる必要があります。
しかし収益不動産には、オーナー事情があります。
借入返済、収支計画、投資回収、既存テナントとの条件差、社内事情、相続事情。
こうした事情により、マーケットアウトしている物件を、すぐにマーケットインできる条件へ変えられないことがあります。
また、すでに他のテナントが入居している場合、1室だけ大きく賃料を下げることも簡単ではありません。
既存テナントとの条件差が見えてしまえば、次回更新や交渉にも影響するからです。
つまり、空室が少ないからこそ、逆に打てる手が限られることもあるのです。
ハード面に原因があっても、すぐには直せない
決まらない理由が、建物のハード面にあるケースもあります。
・貸室の形状が使いにくい。
・設備が今のニーズに合っていない。
・共用部の印象が弱い。
・用途そのものが周辺ニーズとずれている。
このような場合、本来であればリノベーションや用途変更、コンバージョンを検討すべきです。
しかし、収益物件では費用対効果が重要です。
テコ入れすれば良いと分かっていても、投資回収や実施タイミングの問題で、すぐには動けないことがあります。
「改善すれば可能性はある。しかし、いま費用をかける判断はできない」
この現実も、リーシングを難しくします。
気候変化で、以前の設備が通用しなくなることもある
分かりやすい例が、空調です。
地球温暖化の影響で酷暑が常態化し、以前なら問題にならなかった冷房能力では、夏場に追いつかなくなる物件も出てきています。建物や空調機器そのものは同じでも、外部環境が変わることで、物件の評価が変わってしまうのです。
特に、短期で入れ替わるセットアップオフィスなどでは、夏場に空調への不満が出て、秋以降の退去につながることもあります。本来であれば、空調機器の強化や設備改修を検討すべきです。
しかし、建物の設備容量、工事費、投資回収、契約期間、オーナー事情などにより、すぐにハード面へ手を加えられない場合があります。その場合、次の募集でも同じ弱点を抱えたままリーシングすることになります。
以前は貸せていた物件でも、気候や環境の変化によって、急に決めにくくなることがあるのです。
用途によって難易度は違う
収益不動産の中でも、用途によってリーシングの難易度は大きく異なります。
一般的に、レジデンスは比較的決めやすい用途です。
住む場所を探す人は常に一定数存在し、条件が相場から大きく外れていなければ、時間をかけて入居者を見つけやすいからです。
一方で、オフィスや店舗はそう簡単ではありません。
オフィスは、面積、レイアウト、駅距離、働き方の変化、採用環境などに左右されます。
店舗はさらに、視認性、導線、通行量、業態との相性、給排水、排気、営業時間、周辺環境など、多くの条件が重なります。
そのため、新築であっても数年間決まらないケースがあります。
新しい建物だから決まるわけではありません。
立地が良いから決まるわけでもありません。
用途と市場ニーズが合っていなければ、空室は長期化します。
「棚ぼた」で決まった物件は、理由が分からないこともある
いろいろやった末に、突然決まる物件があります。
・募集資料を見直す。
・写真を撮り直す。
・ステージングを実施する。
・仲介会社への伝え方を変える。
・条件の見せ方を整理する。
そうしてあれこれ「ジタバタ」している途中で、なぜか突然申し込みが入ることがあります。
しかも、その時点では、まだ準備していた施策が完成していないこともあります。
・マイソクを作り直すために撮影したのに、その新しいマイソクを使う前に決まる。
・ステージングをしようとしていたら、その前に決まる。
一見すると、やったことが無駄になったように見えます。
しかし、そうではありません。
その物件を何とかしようと動いていたこと自体が、市場や仲介会社に少しずつ伝わっていたのかもしれません。
何が決め手だったのかは、分からないこともあります。
もちろん、成約後に「なぜこの物件に決めたのか」を聞くことは大事です。
ただ、その理由が次回も再現できるとは限りません。
どの動きが効くかは、その時の借り手、その時の市場、その時のタイミングによって違うからです。
棚ぼたの意味は、何もしない幸運ではない
「棚からぼたもち」という言葉があります。
何もしないのに、思いがけない幸運が落ちてくる。
一般にはそういう意味で使われます。
しかし、実はこういう逸話だという説もあります。
小坊主が棚の上のぼたもちを食べたいと思った。
手を伸ばしても届かない。
いろいろ試しても届かない。
それでも食べたいと、畳の上でジタバタする。
その振動が少しずつ棚に伝わる。
皿が少しずつずれる。
そして、ぼたもちが落ちてくる。
これは、何もしなかった人に訪れた幸運ではありません。
いい意味で、「ジタバタ」した振動が、結果として棚に届いたのです。
リーシングも同じです。
・すぐに結果が出なくても、やれることを続ける。
・市場に情報を出し続ける。
・仲介会社に伝え続ける。
・物件の見せ方を工夫し続ける。
その小さな振動が、ある日、成約につながることがあります。
リーシングにおける棚ぼたとは、偶然を待つことではありません。
決まるまでジタバタし続け、その振動を市場に伝え続けることなのです。
ただし、むやみやたらな下手な「ジタバタ」よりも、
狙いの適確な「ジタバタ」の方がいいに決まっています。
プロは100%稼働の難しさを知っている
長年リーシングをやればやるほど、多くのビルをすべて100%稼働させ続けることの難しさを知ることになります。
空室は、単に営業努力が足りないから生まれるものではありません。
市場、用途、建物、賃料、タイミング、オーナー事情、既存テナントとの関係。
複数の要素が重なって発生します。
だからこそ、本当のプロのリーシングマネージャーは、
「必ず決められます」
とは簡単に言いません。
決められる物件と、決めにくい物件の違いを見極める。
すぐに動かすべき条件と、動かせない条件を整理する。
そして、いま打てる現実的な手を探す。
それがプロの仕事です。
リーシングと建築バリューアップはつながっている
決まらない物件を前にしたとき、考えるべきことは一つではありません。
・賃料を下げるべきなのか。
・募集条件を変えるべきなのか。
・見せ方を変えるべきなのか。
・建物を改善すべきなのか。
・用途を見直すべきなのか。
こうした判断は、リーシングだけでは完結しません。
・建物をどう使うか。
・どこまで手を入れるか。
・どのタイミングで投資するか。
収益不動産の空室対策は、貸す視点と創る視点をつなげて考える必要があります。
まとめ
高い稼働率を維持していても、決められない物件はあります。
それは、リーシングの力がないからとは限りません。
・マーケットアウトしている条件を変えられない事情。
・ハード面の課題があっても手を入れられない事情。
・気候や周辺環境の変化。
・用途特有の難しさ。
・個別性と偶然性。
・既存テナントとの関係。
こうした要素が重なると、リーシングのプロであっても簡単には決められません。
不動産のリーシングは、根性論ではありません。
市場と物件の接点を探り、現実的に打てる手を見極める仕事です。
そして、決まらない時でも、やれることをやる。
・募集資料を見直す。
・写真を撮り直す。
・仲介会社に伝え直す。
・見せ方を変える。
・条件を整理する。
・必要であれば、建築的な改善や用途の見直しまで検討する。
すぐに結果が出なくても、その動きは無駄とは限りません。
いい意味での巧みな「ジタバタ」をし続けることで、
その振動が市場に伝わり、ある日突然、成約につながることがあります。
これが、リーシングにおける「棚ぼた」だと思います。
棚ぼたとは、何もしない幸運ではありません。
やれることを続けた振動が、どこかに伝わった結果なのです。
ただし、決まらない理由が常に物件側にあるとは限りません。
リーシングが弱い会社を元付けにしていると、本来なら決まる物件まで決まらなくなることがあります。
私たちは、空室に困っている物件の相談を受けた場合、まず元付け会社の募集資料、マイソク、ネット上の募集情報を確認します。
写真の見せ方、図面の分かりやすさ、物件コメントの精度、弱点の扱い方、誰に向けて貸したいのかという意図。
こうした点を見ると、リーシングの実力はある程度分かります。
実際、募集資料を見ただけで、
「ああ、これでは決まりにくい」
と分かるケースも少なくありません。
その理由は、こちらの記事で解説しています。
また、立地が良くても、商業ビルは簡単には決まりません。
業態、階数、導線、賃料水準、周辺ニーズの変化によって、リーシングが難しくなることがあります。
詳しくは、こちらの記事でも解説しています。
都心一等地でも、商業ビルのリーシングが難しい理由
執筆:プロパティー・パートナーズ株式会社
営業本部 クリエイティブディレクター












