貸せる面積を増やすだけではバリューアップにならない時もある

始めに~高賃料エリアほど問われる、余白と稼働率の設計

土地価格や賃料水準の高いエリアで不動産活用を考えると、発想はどうしても「貸せる面積をできるだけ増やす」方向に向かいます。

・少しでも多くの区画をつくる。
・少しでも広い専有面積を確保する。
・できるだけ高い賃料で貸せるようにする。

もちろん、それは不動産事業として自然な考え方です。

収益不動産において、貸せる面積は重要な収益源です。
専有面積が増えれば、単純計算では賃料収入も増える可能性があります。

しかし、面積いっぱいに貸せる空間をつくることが、必ずしも長期的な収益最大化につながるとは限りません。

不動産の価値は、専有面積の広さや区画数だけで決まるものではありません。
建物に入ったときの印象、共用部の使いやすさ、動線のわかりやすさ、滞在時の居心地、そして利用者や入居者が「ここを選びたい」と感じる理由によっても大きく左右されます。

特に賃料水準の高いエリアでは、入居者は単なる面積だけを見ているわけではありません。
同じような立地、同じような賃料帯、同じような面積の物件が並んだとき、最後に差が出るのは、物件全体の印象や使い勝手です。
そのため、貸せる面積を最大化することだけを優先すると、かえって物件全体の魅力が弱くなり、稼働率や賃料維持力に影響する場合があります。

目次

貸せない面積が、施設全体の価値を高めることがある

たとえば、レンタルオフィスで稼働率が伸び悩んでいた物件において、貸室として使っていた一部屋を、あえて貸せない共用のレストエリアに変更した事例があります。

一見すると、賃料を生まない面積を増やしたように見えます。

貸室を一室減らすわけですから、表面的には収益機会を失っているようにも見えます。
高賃料エリアであればなおさら、その判断には勇気が必要です。

しかし、その共用の余白が施設全体の印象を変えることがあります。

・入居者が少し休める場所がある。
・来客前に気持ちを整えられる場所がある。
・個室の中だけで完結しない、ちょっとした居心地の良さがある。
・施設全体に、詰め込みすぎていない印象が生まれる。

こうした変化は、数字だけを見ていると見落とされがちです。
しかし実際に物件を内見する人や、日々そこで働く人にとっては、こうした余白が判断材料になります。

同じ面積、同じ賃料帯の物件でも、共用部や余白のつくり方によって、施設全体の印象は大きく変わります。

なお、この施設は今では高い稼働率を維持しており、このレストエリアを貸そうと思えば貸せる状況にまで集客が良好です。
しかし、また稼働率が下がって改善されないといった状況にならない限り、このレストエリアはなくさない方針です。

レストエリアにした一室

稼働率は、面積だけでは決まらない

もちろん、稼働率が改善したとしても、その理由を一つに絞ることはできません。

・募集条件の見直し。
・運営体制の改善。
・営業活動の強化。
・周辺需要の変化。
・競合物件との関係。
・賃料設定の調整。

さまざまな要素が重なって、稼働率は変化します。
したがって、「貸室を共用部に変えたから稼働率が上がった」と単純に言い切ることはできません。

しかし、このような事例が示していることは重要です。

不動産の価値は、貸せる面積の合計だけでは決まらないということです。
面積を最大化しても、稼働率が低ければ収益は安定しません。
一方で、あえて余白空間をつくることで、物件全体の個性や使いやすさが高まり、結果として選ばれやすくなるなら、長期的にはその方が成果につながる場合があります。

つまり重要なのは、単純に「何㎡貸せるか」ではありません。
その空間が、どのように使われ、どのように見られ、どのように選ばれるかです。

高賃料エリアほど、余白の価値が問われる

高賃料エリアでは、貸せる面積を削る判断は簡単ではありません。

一坪あたりの賃料が高いほど、貸室を減らすことの機会損失は大きく見えます。
そのため、どうしても「できるだけ専有部を増やす」「共用部は最小限にする」という設計になりがちです。
しかし、賃料が高いエリアほど、入居者の目も厳しくなります。

・単に駅に近い。
・住所が良い。
・面積がある。
・賃料が相場内である。

それだけでは、選ばれる理由として弱い場合があります。
特に、同じエリアに複数の選択肢がある場合、入居者は専有部だけでなく、建物全体の印象、共用部の質、動線、居心地、働きやすさ、来客時の見え方まで含めて比較します。

高い賃料を払うからこそ、単なる面積以上の価値を求めるのです。
その意味で、高賃料エリアほど「余白をどう設計するか」が重要になります。

余白とは、単なる空きスペースではありません。
無駄な面積でもありません。

施設全体の印象を整え、利用者の満足度を高め、物件の選ばれ方を変えるための設計要素です。

余白は、収益を下げるものではなく、収益を支えるものになり得る

不動産活用では、どうしても「貸せる場所」と「貸せない場所」を分けて考えがちです。

貸せる場所は収益を生む。
貸せない場所はコストになる。

たしかに、会計上はそのように見えるかもしれません。
しかし、実際の物件運営では、貸せない場所が貸せる場所の価値を支えていることがあります。

・エントランスの印象が良いから、内見時の評価が上がる。
・共用部が整っているから、入居者が長く使いやすい。
・休憩スペースがあるから、小さな個室でも窮屈に感じにくい。
・施設全体に余裕があるから、賃料に対する納得感が生まれる。

このように、直接賃料を生まない空間が、専有部の価値を補強することがあります。
特に小規模区画のレンタルオフィスやセットアップオフィスでは、専有部だけで十分な快適性を確保するのが難しい場合があります。
そのとき、共用部やレストエリア、打ち合わせスペース、ラウンジ的な余白が、施設全体の使いやすさを補います。
結果として、専有部の面積以上の価値を感じてもらえる可能性があります。

重要なのは、面積効率ではなく、収益効率で考えること

不動産のバリューアップでは、面積効率だけでなく、収益効率で考えることが重要です。

面積効率とは、できるだけ多くの貸室を確保する考え方です。
収益効率とは、物件全体としてどれだけ安定的に収益を生むかを考える視点です。

たとえば、貸室を最大限に増やしても、稼働率が低ければ収益は伸びません。
逆に、貸室を一部減らしても、施設全体の魅力が高まり、稼働率や賃料維持力が上がるなら、結果的に収益性が改善することがあります。

もちろん、すべての物件で余白を増やせばよいわけではありません。

エリアの賃料水準。
想定する入居者層。
既存の間取り。
共用部の状態。
競合物件との差別化要素。
運営コスト。
改修費用。
投資回収の見込み。

これらを踏まえて、どこに面積を使うべきかを判断する必要があります。

余白をつくること自体が目的ではありません。
物件全体の価値を高めるために、どこに余白が必要かを見極めることが重要なのです。

最初から正解が見えているわけではない

ただし、最初から何が正解かを完全に見通すことはできません。
人間は神様ではありません。
計画段階では、周辺相場、想定賃料、競合物件、ターゲット層、既存建物の条件などをもとに、できる限り合理的に判断します。

・貸せる面積をできるだけ確保する。
・区画数を増やす。
・専有部を広く見せる。
・共用部は必要最小限にする。

その時点では、それが「程よい」判断に見えることもあります。

実際、不動産事業では、最初から共用部や余白を大きく取ることが正解とは限りません。
貸せる面積を最大化することが、合理的な選択になる場面もあります。

しかし、運営を始めてみると、想定通りに稼働率が上がらないことがあります。

・賃料が高すぎるのか。
・区画の大きさが合っていないのか。
・内装の印象が弱いのか。
・共用部に魅力が足りないのか。
・競合物件と比べたときに、選ばれる理由が不足しているのか。

こうしたことは、計画段階だけでは見えにくい場合があります。

大事なのは、最初の判断が外れたかどうかではありません。
稼働率が伸びないときに、その状況をどう読み直し、次にどのような施策を打つかです。

当初は貸室として計画した区画であっても、運営状況を見ながら、共用のレストエリアや打ち合わせスペース、ラウンジ的な余白に変えることで、施設全体の印象が変わることがあります。

つまり、余白設計は、最初から決め打ちして上手くいくかどうと言えるような単純な話ではありません。
運営後の反応を見ながら、物件の弱点を補い、選ばれる理由を増やすための次の判断でもあります。

不動産のバリューアップでは、最初の計画精度も重要です。
しかし、それ以上に重要なのは、運営後に起きた現実を受け止め、物件を調整し続ける力です。

貸せる面積を最大化した。
それでも稼働率が上がらない。

そのときに、
・単に賃料を下げるのか。
・広告を増やすのか。
・募集条件を変えるのか。
・それとも、空間そのものの使い方を見直すのか。

この判断こそが、不動産バリューアップの実務力です。

まとめ~貸せる場所を増やすのではなく、選ばれる理由を増やす

これからの不動産バリューアップでは、単に貸せる面積を増やすだけでは不十分です。

・どのような入居者に選ばれたいのか。
・その入居者は何を重視しているのか。
・専有部だけでなく、共用部や施設全体にどのような価値を感じるのか。
・内見時に何が印象に残るのか。
・入居後に何が満足度につながるのか。

こうした視点から、空間の使い方を考える必要があります。
単純に貸せる場所を増やせばいい、というわけではなく、選ばれる理由を増やす。
この発想が、これからの不動産バリューアップではますます重要になります。

面積いっぱいに区画を詰め込むだけでは、物件の価値は高まりません。
必要なのは、専有部と共用部、収益面積と余白、短期収益と長期稼働率のバランスを見ながら、物件全体の魅力を設計することです。

あえて貸せない面積をつくる。
しかし、その余白によって、物件全体が選ばれやすくなる。

そのような余白設計も、不動産バリューアップの重要な手法の一つです。

執筆:プロパティー・パートナーズ株式会社
営業本部 クリエイティブディレクター
監修:建築技術部

ビル・不動産バリューアップ支援
プロパティー・マネジメントサービス

関連記事

  1. セットアップオフィスとは|多様化した内装形態を実例付で徹底解…

  2. 建物の印象改善リノベーションによるバリューアップ

  3. オフィスから住居へのコンバージョンとは?空室ビルの新しい活用…

  4. 弱点を先に言える営業が最後に信頼される理由

  5. セットアップオフィス|神田駅徒歩5分|5路線利用|ハイセンス…

  6. ビル改修プロジェクトを円滑に進めるには?

ブログ一覧