2024.8.22 居抜きオフィス
目次
1.「居抜きオフィス」の歴史
(1)「居抜きオフィス」とは
居抜きオフィスとは、前のテナントが使用していた内装や設備をそのまま引き継いで利用できるオフィスのことです。
通常、オフィスを借りる際には、内装や設備を新たに整えるために時間と費用がかかりますが、居抜きオフィスではこれらの準備が不要で、すぐに業務を開始することができます。
居抜きオフィスのメリットは、初期費用の削減や、短期間での移転が可能になる点です。
また、前のテナントが残した設備や家具をそのまま利用できる物件が一般的なため、コストパフォーマンスが高いとされています。
ただし、前のテナントが使用していたレイアウトや設備が必ずしも新しいテナントのニーズに合うとは限らないため、必要に応じて改装や調整が必要になることもあります。
また、オフィスに限らず、「居抜き物件」というのは、居抜きになる経緯が物件毎に異なるため、その内容によって、原状回復義務の内容や内装の権利関係が通常の賃貸オフィスのような貸主と借主という2者間のシンプルな契約ではなく、前テナントとの契約関係が生じるケースもあります。
内装設備の状態も、古いか新しいかだけではなく、オフィス家具が全て残っていたり、一部だけだったり、家具は全く無いケース等、物件毎の事情によって異なります。
(2)「居抜きオフィス」が一般化した背景
「居抜きオフィス」が一般化した正確な起源、時期などは不明ですが、1990年代のバブル崩壊時がひとつの契機になったのではという説が有力です。
こういう歴史と言うのは、なかなか事実確認が困難ですが、納得感の高い有力な説としてご紹介しておきます。
①経済の変動とオフィス需要の変化
1990年代初頭のバブル経済の崩壊後、日本の経済は低迷し、多くの企業が経費削減を求められました。
これに伴い、オフィスの運用コストを削減する手段として、居抜きオフィスの需要が高まったと言われています。
②不動産市場の進化
バブル崩壊後、不動産価格が下落し、オフィスの空き物件が増えました。
この状況の中で、オーナー側も空き物件を有効活用する手段を模索するようになったことも背景にあります。
③企業の多様化と柔軟なオフィス利用
2000年代以降、ITベンチャーやスタートアップ企業が増加し、これらの企業は迅速な事業展開やコスト抑制を求められることが多かったため、居抜きオフィスの利便性が支持されるようになりました。
特に、スタートアップ企業には、短期間かつローコストで事業を開始できるというターンキー※型のオフィスとして居抜きオフィスがニーズにマッチしました。
なお、居抜き店舗はオフィスよりも早くから一般化していたと思われます。
例えば、中小の飲食店舗は、バブル崩壊等の不況期以外でも、経営的に数年間で黒字転換できないと撤退するケースも珍しくないため、撤退前に次のテナントを探して原状回復費の負担を回避する、といった形で「居抜き店舗」が一般化していったと考えらます。
※「ターンキー」はビジネス用語で「すぐに使える状態で提供される製品やサービス」を指します。
(3)「居抜きオフィス」の人気が一時期は低迷した理由~「中古イメージ」
こうして一定の市場ニーズが生れた「居抜きオフィス」ですが、実は「中古」のイメージが強く、「居抜き店舗」と比較すると人気が低迷していた時代がありました。
このイメージが生まれた背景には下記のような要因があります。
①品質のばらつき
居抜きオフィスは前のテナントが使用していた内装や設備をそのまま引き継ぐため、品質や状態がまちまちでした。
古くなった設備や不具合が残されたままの場合もあり、新しいテナントにとっては魅力的でないと感じられる物件も珍しくはなかったようです。
②イメージの問題
バブル崩壊後に増加した頃の居抜きオフィスは「使い古された」「前の企業の残り物」といった否定的な中古イメージが強い物件もあり、清潔感やモダンさ、そして独自性を打ち出したいと考える企業にとっては敬遠する傾向がありました。
2.「居抜きオフィス」と「セットアップオフィス」の関係
(1)「セットアップオフィス」の源流は「ハイグレードな居抜きオフィス」!?
こうした経緯があるためか、現代のオフィスと店舗で比較すると、オフィスの居抜き物件は少ない傾向にありました。
これは、オフィスの原状回復が「普通内装」の状態に戻すケースが一般的、一方の店舗はスケルトン戻し、というのが関係しています。
店舗は居抜きの方がイニシャルコストが抑えられるメリットが大きくて、次のテナントを探しやすい、といった小規模飲食店等のケースが比較的多いのに対して、オフィスの居抜きは、内装の傷みや汚れが少ない、グレードが高い、といった良好な状態でなければ、むしろ普通内装へ原状回復をした方がイメージが良く、高く早く貸せるケースが多いからでしょう。
営業経験の長い現場のベテラン社員によれば、リーマンショック後に、ハイグレード内装と高級家具が残った広めの規模のオフィスで、「これを原状回復するのは勿体ない」、という事態が発生して「ハイグレードな居抜きオフィス」が広まったという経緯があるようです。
この過程で、「ハイグレード内装の居抜きオフィス」が需要過多の状態にあることに気づいたある企業が「セットアップオフィス」を本格的に手掛けたことが、今の「セットアップオフィス」の源流になったものと思われます。
この企業は、今ではセットアップオフィス市場のパイオニア的な存在となっていますが、現在は多くの企業がセットアップオフィス市場に参入して市場も拡大しています。
(2)「居抜きオフィス」が再び脚光を浴びている背景
バブル崩壊とリーマンショックという2度の大きな経済変動の過程においては、「居抜きオフィス」は不景気で空室が増えた時代に、苦肉の策的なきっかけで人気が出たという経緯がありましたが、現在の「居抜きオフィス」の人気の高まりには、過去の不況期とは異なる背景があります。
①オフィス形態へのニーズの多様化
近年、企業の働き方が多様化し、プロジェクト単位でのオフィス利用や短期間の賃貸契約が増えたこと、また、コロナ禍を契機に在宅勤務が普及したことで、多様なオフィス形態へのニーズが生れています。
そうした背景の中で、その都度内装を一から整えるのではなく、既存のオフィスをそのまま利用する「ターンキー型物件」の方が効率的だと考える企業が増加したという時代背景があります。
②サステナビリティとエコ意識の向上
近年、環境への配慮が求められるようになり、既存のインフラを活用することが環境に優しい選択肢として認識されるようになりました。
居抜きオフィスは新しい内装や設備を作り直す必要がないため、資源の節約につながる点も評価されています。
(3)両方が同じカテゴリで募集されるケースが増加中
見た目の状態だけでいえば「居抜きオフィス」も広義の「セットアップオフィス」と言えるかもしれませんし、「セットアップオフィス」もテナントが入れ替わった後には「居抜きセットアップオフィス」と言うべきではないか?とか…
厳密に考え出すと、ややこしい状態になっています。
最近のセットアップオフィスの空室募集サイトの中には、「居抜き」と表示して掲載してある物件もあり、これは、セットアップオフィスが居抜きになったのか、居抜きオフィスをセットアップオフィスの募集サイトにも掲載しているのか、問い合わせしてみないとわからないケースもあります。
このように、居抜きオフィスも混然と「セットアップオフィス」というカテゴリに掲載されたりという、明確な答えも統一ルールもないカオスな状況が生れています。
(4)現在の「居抜きオフィス」は古臭さを感じない物件が多い
「居抜き」と言う言葉はセットアップオフィスのような不動産用語ではなく、語源としてもとからあった言葉を、そのまま使うことが一般化してしまいました。
和製英語好きな不動産業界なのに、「中古イメージ」の強い「居抜き」という用語を誰が最初に使ったのか不明ですが、おそらく、中古であってもそれほどイメージが悪くない飲食店で普及したことが背景にあるのかもしれません。
確かに、テナント募集時に多額の初期費用がかかる飲食店等は「居抜き」というだけで開店費用が大幅に安くできるというメリットイメージのアピールが大きく、積極的にこの用語をつけて募集したはずです。
しかし、原状回復=リニューアルが当たりまえの賃貸オフィスで中古で古臭いイメージの強い「居抜き」という状態があまり流行らなかったらしいというのは頷ける話です。
そこに、リーマンショック時に「ハイグレードな居抜き」が市場に出てきたことで「居抜きオフィス」が人気となり、さらに、その「ハイグレードな居抜きオフィス」が供給不足となってきたから「セットアップオフィス」が開発されて普及したという流れが現在に続いていますので、現代の居抜きオフィスは必ずしも「中古で古臭い」というイメージは当てはまらない物件が多くなってきています。
(5)「居抜き」や「セットアップ」のイメージに惑わされずに両方から探すのが正解
一般の方は「居抜きオフィス」という言葉から、どうしても中古のマイナスイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、今までの経緯でみてきたように、現在の居抜きオフィスは、ハイグレード内装やおしゃれなデザイナーズ内装の物件だったり、意外と綺麗で使いやすかったり、といった物件も珍しくはないため、見た目だけではセットアップオフィスとの差がわからないケースもあります。
空室募集サイトで、両方が同じカテゴリに掲載されているケースが増えている背景にはこうした事情もあるでしょう。
ターンキー型のオフィスを探したい場合は、双方の用語のイメージにとらわれずに、セットアップオフィスと居抜きオフィスの両方に目を通してみるということがオフィス探しの定石となりつつある、と言えるでしょう。
(6)「居抜きオフィス」も広い意味では「セットアップオフィス」!?~「PRE-FITTED SETUP OFFICE」
今まで見てきたように、「居抜き」というのは、オフィスの形態ではあるものの、賃貸オフィスの「供給経緯」を示す形容詞であり、一方の「セットアップ」というのは、「内装の状態」を示すものです。
そういう視点から考えると言葉が長すぎるということを別にすれば「居抜きセットアップオフィス」というい方も可能ですので、これを和製英語で表現してみました。
それが、「プリフィッテド・セットアップオフィス(PRE-FITTED SETUP OFFICE)」です。
この方が「居抜きオフィス」より、ハイグレード感が伝わると思いますが、いかがでしょうか。
(この言い方が一般化するには言葉が長すぎる、と言うのがネックですが。)
(7)ハイグレードな居抜きオフィスの事例
▮ PRE-FITTED HALF SETUP OFFICE
オフィス家具のない、ハイグレードかつ好立地にある居抜きオフィスの事例です。
会議室やマルチルーム、レセプション等の間仕切りレイアウトを居抜き状態で残しており、「居抜きハーフセットアップオフィス」と言える状態です。
「居抜きオフィス」には、このようにオフィス家具が無い状態だったり、内装がハイグレードできれいな状態、しかも、セットアップオフィスがあまり供給されないような都心の一等地といった立地の物件が出ることがあります。
レストエリアにもフリーアドレスのワークラウンジにも使えるマルチルームが設置済み。