2024.8.13 最新のセットアップオフィスとは
目次
1.はじめに~AIがまだ知らない最新の「セットアップオフィス」を実例で徹底解説
(1)「セットアップオフィス」を「内装済みオフィス」と説明するだけでは不十分
最近のネット記事はAIを利用することが当たり前の時代になってきましたが、和製英語等を使った業界内の慣用語句等の生成には、営業現場の実態と異なる内容を作ってしまうケースも多々あります。
例えば、「セットアップオフィスとは?」と単純に質問すると、概ね以下のように説明するはずです。
・すでに内装工事が完了しているオフィスのこと。
・入居者は内装工事やオフィス家具を用意せずとも直ちにビジネスをスタートできる状態。
しかし、現在のセットアップオフィスは、上記説明では不十分な形態に変化しています。
こうした特殊な業界慣行の中で、短期間に変化する和製英語の意味をAIに訊ねても、正確には答えてくれません。
(2)「ハーフ・セットアップオフィス」の出現
2024年時点の「セットアップオフィス」は、上記のような単純な「内装の有無」では説明しきれない状況にありますが、その端的な状況を示すのが「ハーフ・セットアップオフィス」と言う形態の増加です。
ハーフ・セットアップオフィスは「ハーフ」と言うワードが示すように、まだ内装が完了していない状態のセットアップオフィスです。
当初の「内装が完了している」という定義からいえば「セットアップオフィス」とは言えないではないか、と思われるかもしれませんが、このワードには法的な定義や業界ルールは存在しない慣用句的な業界和製英語なので、特に誇大広告的な問題がない限り、使う側の自由ということで、物件数の増加に伴い「ハーフ・セットアップオフィス」と言うワードも徐々に一般化しつつあります。
当初はセットアップオフィスのパイオニア的な事業者が殆どを供給していた形態でしたが、現在はより多くの事業者が参入しており、用語の使い方も統一されていない部分があるため、セットアップの具体的内容は物件詳細を確認する必要があります。
特に、一般の方に紛らわしいのは、「ハーフ・セットアップオフィス」であっても、ワードが長くて面倒だからか、「セットアップオフィス」とだけ表示するケースも少なくない点です。
今では、「セットアップオフィス」というカテゴリで空室情報を検索すると、「内装が完了してオフィス家具まである状態」も「内装が完了していない状態」のものも、両方が混在している状況です。
2.最新のセットアップオフィスとは~2024年現在の状況を事例を交えて徹底解説
そこで、あらためて「ハーフセットアップオフィス」も含めた「最新のセットアップオフィス」の意味と「メリット・デメリット」について、また「居抜きオフィス」や「シェアオフィス・レンタルオフィス」等のよく似たオフィス形態との違いを、2024年という今の業界実態に即して以下にまとめます。
なお、ハーフセットアップオフィスは実際に当社で内装リノベーションの設計施工を行った実例を掲載しています。(「PP設計施工」と表示)
また、最後にビルオーナー様向けに、営業現場のベテラン社員に聞いてみた業界事情等の解説についてもご参考としてご紹介します。
(1)変化したセットアップオフィスの意味
現在のオフィス形態を示す業界用語を、セットアップオフィスに限定(内装状態が同様の居抜きオフィス等は後述)して「内装の範囲」を基準に並べると、下記のような関係になります。
A:スケルトン(内装がない)< B:一般的な普通内装 < C:ハーフ・セットアップ内装 < D:セットアップ内装
この図式でおわかりのように、AとDのみの市場であれば、内装が「ほぼ全て有る」か、「ほぼ全て無い」かと言う説明のみで足りますが、実際には、Bの普通内装オフィスが市場の大半を占めており、またCのハーフセットアップオフィスが増加傾向にある、というのが2024年時点の実態であり、AIの回答のような、AとDのシンプルな対比説明では不十分な状況です。
現在の「セットアップオフィス」の意味を正確に説明するには、面倒でも、この「普通内装の一般的オフィス」との違いとして「内装の範囲」を説明する必要が出てきます。
なお、セットアップオフィスのような特定のオフィス形態を現す業界用語がある一方で、それまでに普及してきた標準的な「一般的な普通内装のオフィス」については、厳密な業界ルールや特定の呼び方が存在しません。
(2)ハーフ・セットアップオフィスとは~普通内装以上-フル内装未満
ハーフセットアップオフィスの内装は、上記の図のように、B:普通内装オフィスとD:セットアップオフィスの中間に位置する内装の形態です。
入居されるテナント様の立場から見ると下記の違いがあります。
D:セットアップオフィス=追加で設置するものが殆どなく直ちに利用できる状態
C:ハーフセットアップオフィス=追加で設置するものが残されているが、普通内装よりは負担が少ない状態
「ハーフ」と言っても「半分」と言う意味ではなく「途中の」という意味で、何をどこまで設置するかのルールは存在せず、内装範囲は物件毎に異なります。
しかし、一般的な「B:普通内装オフィス」にも「一定範囲の内装」があるため、「セットアップオフィス」と言うためには、少なくとも、旧来の普通内装の範囲を「超えている」ことが必要です。
そこで、次に「B:普通内装オフィス」の「一定範囲の内装」についてもまとめておきます。
(3)ハーフ・セットアップオフィスへのリノベーション実例
約64坪のオフィスフロアを、前テナント様の退去を機会に、ビルオーナー様と協議して「ハーフセットアップオフィス」にリノベーションした事例です。
短期間で入れ替わるよりも、中長期で入居して頂けるテナント様を誘致したいとのニーズがあり、カスタマイズ性を残した「ハーフセットアップオフィス」を採用しました。(PP設計施工:2021年)
▮ AFTER - ハーフセットアップオフィス~Logran御徒町のケース
・スケルトン天井
・造り付けデスク
・ペンダントライト
・おしゃれなシンク台 ・アクセント照明
・おしゃれな壁面デザイン
・デスクとチェアを設置
・執務室とマッチしたデザイナーズ内装
・カスタマイズ性を残したレセプションスペース
・落ち着いた明るい内装を採用
・女性用トイレには小物入れを設置
(4)一般的な普通内装のオフィスとは
「一般的な普通内装」にも厳格なルールはなく、時代とともに少しづつ変化していく部分はありますが、「セットアップオフィス」、特に「ハーフセットアップオフィス」というオフィス形態を説明するためには、現時点での「普通の内装」の範囲がどこまでか、という説明が必要です。
「普通のオフィス」における「一般的な普通内装」とは以下の一定範囲と特徴があります。
①「普通の内装」の一定範囲とは
・天井、床、壁の装飾的な工事
・空調、照明等の設備(近年は、電話、LAN等も機器を繋ぐだけで使えるレベルまでは配線設備するのが標準的)
・トイレ、給湯設備~この2つを慣用句で「水回り設備」と言うことも一般的。
そして大きなポイントは「テナント毎にニーズが大きく異なる設備や備品等」、つまり、レイアウト関連の間仕切り工事やオフィス什器備品の設置を含まない範囲ということが「普通のオフィス」の「一般的な普通の内装」の範囲です。
②普通内装オフィスの特徴~画一的な金太郎飴的デザイン
・天井、床、壁の見た目のデザインにおいては、材質やカラーバリエーションはあるものの、基本的には、白とライトグレー系の地味なイメージを基調とした範囲でのバリエーション(淡い色彩もあります)に過ぎず、貸主やビルの違いにもかかわらず、どの賃貸オフィスも似たようなデザインが特徴で、ある意味「金太郎飴」のような画一的なデザインが大きな特徴です。
しかし、昭和の時代の日本の高度成長期を支えてきた中で、徐々に画一的な内装に収斂した結果であり、オフィスの執務環境として、それなりに良い点がたくさんあるのも事実であり、普通内装のオフィスも適正な募集条件設定と適切な募集を行えば、今でも普通に空室は埋まります。
なお、内装の見た目のデザインは「セットアップオフィス」と言うための条件として決まったものはありませんが、最近のセットアップオフィスでは、こうした画一的内装デザインではなく「おしゃれ」だったり「ハイグレード」な内装が多い傾向にあります。
(5)「ニューノーマル」や「クリエイティブオフィス」の要素がトレンドに
このように「普通内装オフィス」の範囲を超えたオフィス設備を設置するのがセットアップオフィスの内装の条件と言えますが、コロナ禍の過程で「オンラインミーティング」が一気に普及したり、「クリエイティブオフィス」の必要性の意識が高まった結果、旧来のオフィスでは見られなかった「ニューノーマル」な設備がセットアップされるケースもみられます。
具体的な「ニューノーマル」と言えるような設備は、次のようなものです。
①オフィス用個室ブース~通称「テレカンブース※」「テレワークブース」「集中ブース」「フォンブース」等
②ファミレス席やカフェラウンジ等のリフレッシュ&コミュニケーションスペース
③多目的スペースやマルチルーム
セットアップオフィスは、入居テナント様のカスタマイズの余地が少なくなるため、トレンドになっている人気設備を後から追加しづらいとなると、リーシングに難航しかねませんので、こうしたニューノーマルな設備のセットアップが増える傾向にあります。
その点、ハーフセットアップオフィスは、こうした設備も追加しやすいため、実際に設置工事するのは会議室等だけで、レイアウトプラン図のみを複数用意して、入居検討者様のニーズに合わせて追加工事する、といったケースもあります。
※「テレカン」は、遠隔を意味する接頭辞の「テレ」( Tele )と会議を意味する「カンファレンス」( Conference )を組み合わせた略語です。
(6)「一般的オフィスは内装が無い(スケルトンオフィス)」と読める説明は間違い
なお、「セットアップオフィス」の説明に際して、比較対象のために「内装が無いオフィス」を引き合いに出すケースが多いのですが、その際に「一般的なオフィスは内装が無いので、入居者が全て自分で内装を行う必要がある」という説明が散見されます。
しかし、上記の図のように「内装が全く無いオフィス」というのは「スケルトンオフィス」と呼ばれるもので、特別な事情がない限り、オフィスをスケルトン状態で募集することは従来も現時点でもレアケースであり「一般的」なオフィスとは呼べません。
「スケルトンオフィス」で募集する事例としては、「オフィスと店舗」の両方の用途が可能な場合に、店舗テナントの誘致を期待して、敢えて内装をしない、というケースなどが一般的です。
(7)デザイナーズ・セットアップオフィスという言い方は不要!?
普通内装のオフィスと同じ範囲まで内装して、見た目のデザインだけをおしゃれにしたオフィスは、「セットアップオフィス」と言う用語が生れる以前より「デザイナーズオフィス」と言われています。
不動産業界では「デザイナーズ※」と言う用語は見た目が「おしゃれ」という意味で使われる慣習が一般化しており、内装範囲や機能ではないため、「デザイナーズ・セットアップオフィス」という言い方で重ねて使うことが可能です。
しかし、最近では、そもそも「セットアップオフィスはおしゃれ物件が多い」と言うイメージが浸透しつつあり、もはや言葉が長くなる「デザイナーズ」というアピールの必要性が低いかもしれません。
※「デザイナーズ」の当初の意味は「特定のデザイナーや建築家による個性的デザインの物件」という意味でした。
しかし、今では少しでも個性的でおしゃれな見た目を取り入れたデザインであれば建築家が誰かということにこだわらずに、単に「デザイナーズ物件」と呼んで、昭和の時代に普及した画一的デザインの住宅やオフィス等と区別するために使われています。
店舗内装では「デザイナーズ」とつけるケースが少ない理由は、そもそも店舗内装は画一的ではなく、個性的でおしゃれな内装の方が一般的なため、わざわざ「デザイナーズ」として区別する意味が殆どないためです。
(8)まとめ~変化の背景にスピード・効率と多様性へのニーズ
昭和、平成の時代と比べて、現代のビジネスはスピードと効率が求められるため、セットアップオフィスのような即時に利用可能なオフィスソリューションが人気を集めています。
その一方で、ある程度のスピードも必要だけど独自の内装カスタマイズもしたい、というニーズも高まっており、セットアップオフィスにも、こうしたニーズに対応できる「ハーフセットアップ」状態のものも生まれて増加しています。
昭和、平成の時代の賃貸オフィスと現代のオフィス形態には時代ごとに違いがありますが、「セットアップオフィス」のような多様なオフィス形態が増加しつつある背景には、こうした「スピード・効率」ということに加えて、「働き方の多様性」という時代のニーズが大きく反映されていることも注目すべき点であると言えるでしょう。
3.現時点のセットアップオフィスの「メリット」とは
以上のように変化してきたセットアップオフィスの実態を踏まえて、現時点(2024年)のメリットについて以下にまとめてみました。
なお、ハーフセットアップオフィスの場合のメリットも併記します。
(1)ターンキーソリューション※~イニシャルコストの縮減とオフィス稼働のスピードアップ
当初、居抜きオフィスを源流に生まれたと思われる時点の初期の「セットアップオフィス」の定義では、企業が入居後すぐに業務を開始できるように、オフィス什器、ITインフラ、会議室、休憩エリアなどを整えた「ターンキーソリューション」を備えた特徴を持っています。
この場合は、レイアウトの区画工事の初期投資や備品調達等の手間を省き、迅速にオフィスを立ち上げられるため、ビジネスのダウンタイムを圧縮することができます。
一方、「ハーフ・セットアップオフィス」の場合は、フルセットアップ状態よりも、ターンキーのメリットは低くなりますが、その分、カスタマイズ性が高いメリットがあります。
※「ターンキーソリューション」の「ターンキー」という言葉は、他業界でも使用されるビジネス用語で「すぐに使える状態で提供される製品やサービス」を指します。具体的には、顧客が手間をかけずに鍵を回すだけで(turn the key)、すぐに利用できる状態に仕上げられていることを意味します。
不動産業界では、外国物件とかで「ターンキー物件」と呼ぶケースが日本で「セットアップオフィス」の人気が出る以前から存在していたようです。
(2)短期契約ニーズへの対応と契約期間の柔軟性※
オフィス什器備品まで設置した、ほぼフル装備のセットアップオフィスでは、短期利用のニーズを持つ顧客層をメインターゲットとしているケースが多く、契約期間が短期でも可能に設定されている物件が比較的多い傾向にあります。
ただし、「セットアップオフィス」というためには契約期間がこうでなければならない、という業界ルールはないため、貸主側の事情に応じて物件毎にケースバイケースであり、必ずしも、短期利用者をターゲットとしていない期間設定もあります。
特に面積が50坪を超えるような中規模オフィスで、ハーフ・セットアップ状態の場合は、一般の普通内装オフィスの契約期間に近いケースが多いですが、「相談可能」等の柔軟な姿勢で募集していることも珍しくありません。
※後述の「営業現場に聞いてみた:その2~「短期契約ニーズ」を取り込むにはエントランス・クオリティも大事かも!?」もご参考にどうぞ。
(3)おしゃれさやグレードの高いデザイン
多くのセットアップオフィスでは、内装がおしゃれなデザイナーズ内装だったり、ハイグレードな内装が施されています。
これは、企業のブランディングや従業員のモチベーション向上、快適な作業環境の提供といった「クリエイティブオフィス」に必要な機能のひとつとして採用されています。
この背景には、スピードを重視する企業の多くが、新興のIT企業やクリエイティブ系、ニュービジネス系の企業が多く、そうした企業の多くがオフィスデザインの個性を重視する傾向が強いから、というリーシング上の判断によるところがあると思われます。
(4)原状回復工事費用の縮減
セットアップオフィスにおいても「原状回復義務」があるケースが一般的ではありますが、デザイナ-ズ内装が希望のテナントの場合で、用意された内装デザインが気に入った場合は、普通内装から変更する工事費用が不要なだけでなく、原状回復においても、「普通内装」に戻す必要が無いため、工事費用が縮減できる可能性があります。
(但し、ハイグレード内装等で普通の内装以上に費用がかかるケースもあるので、絶対的メリットではなくケースバイケースです。)
4.現時点のセットアップオフィスの「デメリット」とは
現時点(2024年)のセットアップオフィスの主なデメリットを以下にまとめました。
なお、ハーフ・セットアップオフィスのデメリットも併記します。
(1)賃料が普通内装オフィスの相場より高くなりがち
セットアップオフィスは初期費用を抑えられる反面、月々のランニングである賃料が高めに設定されていることが一般的です。
内装デザインが普通内装の標準化された仕様ではないデザイナーズ内装やハイグレード内装だったり、会議室等の間仕切り工事、オフィス什器といったセットアップ費用を賃料に反映すると、どうしても普通内装のオフィスを基準とした賃料相場よりも高め※になりがちです。
この点は、ハーフセットアップオフィスにおいても同様の傾向にあります。
※イニシャルコスト+賃料等のランニングコストの「総額負担コスト」が、期間によっては「普通内装の一般的オフィス」よりも安くなる設定の物件もあるため、短期のトータルコストを重視したテナント様には、コストメリットが出てくるケースもあります。
(2)カスタマイズの制限~多様なニーズにマッチしづらい
セットアップオフィスの設計によっては、オープンスペースが多く、プライバシーが確保しにくいことがあります。
特に、会議室や個別の作業スペースが限られている場合、業務の進行に支障をきたす可能性があります。
それ以外にも、オフィスレイアウトは企業毎に多様なニーズがあるため、これを予めセットアップすることは、多様なニーズにマッチできないというデメリットにつながるケースもあります。
特に独自のデザインやレイアウトにこだわりがある企業にとっては、自由度が低く感じられます。
ハーフセットアップオフィスの場合は、カスタマイズの余地が残されていますが、それでも、会議室や受付等を予め設置してある場合に、希望するオフィスレイアウトの内容とマッチしない入居者も出てきます。
(3)退去時の原状回復コストが高くなる可能性
一般的には、セットアップオフィスも通常内装のオフィスと同様に原状回復義務があります。
この際に、通常内装のような標準化されたデザインやグレードではない内装の場合、あるいはオフィス什器も高級なものを使用している場合等では、それらのカスタマイズ改修や使用による損傷があった場合の修繕費や原状回復工事費が普通内装のオフィスよりも高くつくかもしれません。
こうした点については、退去にトラブルとならないように、契約時に貸主側と十分に協議、確認をしておくことが大切です。
(4)契約期間の制約
セットアップオフィスは普通内装のオフィスとは異なるニーズのテナントにターゲットを絞っていたり、貸主側の特殊な事情等によって、契約期間の設定が普通内装のオフィスとは異なるケースも珍しくありません。
物件内容が気に入っても、契約期間の制限が自分のニーズにマッチしない、というケースが普通内装のオフィスよりも多いかもしれません。
一方、ハーフセットアップオフィスは、普通内装のオフィスに近い条件設定で募集している傾向があります。
(5)立地の制限※
現時点では、ハーフ・セットアップオフィスも含めて、都市部に集中していることが多いため、希望する地域での物件が限られている場合があります。
特に、特定の地域にこだわりがある企業にとっては物件探しが難しくなることがあります。
これは、セットアップオフィスが賃料が高めになることと、内容によっては相手を限定しがちになるという貸主側のリーシングリスクの関係で、オフィスニーズが多い都市部が中心となっていることが理由でしょう。
しかし、時代の変化による人気の有無次第では、都市周辺部にもセットアップオフィスが増えていく可能性はあります。
※後述の「営業現場に聞いてみた:その3~「セットアップオフィス」が成立しやすいエリアとは?」もご参考にどうぞ。
(6)規模の制限
今のところ、セットアップオフィスの多くが中小規模のオフィスフロアであり、大規模オフィスでは、まだまだ普通内装のオフィスが一般的です。
大規模オフィスをセットアップオフィスにすると、貸主側のコストがかなり大きくなる半面、大企業を中心に独自内装を指向するトレンドがあるため、ニーズがマッチする先を探すのは難航することが予想され、リスク対効果を考えると、貸主側もそこまで踏み切れないという事情があるものと思われます。
(7)まとめ
セットアップオフィスは、移転や起業時のスピードや効率を重視する企業にとって便利な一方で、上記のようなデメリットもあります。
一方、ハーフセットアップオフィスは、メリット、デメリットも、「ほぼフル装備のセットアップオフィス」と「一般内装オフィス」の中間のような位置づけにあります。
オフィス探しの際には、自社のニーズや予算、将来的な計画を十分に考慮して、これらの多様な形態のオフィスのいずれがマッチするかを見極めることが重要です。
5.居抜きオフィスとの違い
(1)「居抜きオフィス」は中古かどうか?
前の借主が退去した状態のまま貸し出す「居抜きオフィス」も「セットアップオフィス」と同じく、入居後に即時にビジネスをスタートできる形態ですが、違うのは、「居抜きオフィス」は特定企業が自分のために内装した状態で、退去後に一部、クリーニングや修繕はあるとしても、基本的には「中古」の状態です。
セットアップオフィスもテナント更新後は「中古」となりますが、「居抜きオフィス」は「居抜き」として募集される時点から「中古」です。
但し内装のハード的な部分だけでいえば、クリーニングだけでなく、壁や床の張替えを行って「リニューアル」していくと、「セットアップオフィス」との差が無くなっていきます。
そう考えると、「居抜きオフィス」との違いは、ハード的に古いか新しいか、ということよりも実は「質的」な部分にこそ違いがあるというべきでしょう。
(2)「質的な違い」とは内装が特定の人だけのニーズで作られている点
質的な意味での違いとはどういうことかと言うと、「居抜きオフィス」は、特定企業が自社のためにだけ作った内装である、という点です。
一方の「セットアップオフィス」は、内装プランを行う時点で、特定の嗜好のターゲット層に絞るということはありますが、それでも、多様なニーズを考慮した汎用性を考えて、また、オフィスデザインやレイアウトの専門家によって設計されるのが一般的です。
つまり、「居抜きオフィス」の場合は、セットアップオフィスよりも、使い勝手が自社のオフィス利用ニーズにマッチしづらい部分が多い可能性があるということです。
但し、オフィスのレイアウトというものは、ある程度、多くのテナントにも共通するような内容が多いので、特段のこだわりがなければ、問題ないケースも多いでしょう。
また、「居抜きオフィス」は、ハイグレード内装だったり、とても綺麗な物件が珍しくはないため「居抜き=中古」と言うイメージで敬遠せずに、広い意味での「セットアップオフィス」として、両方を探してみることもおススメです。
居抜きオフィスについてはこちらの記事もどうぞ。
「居抜きオフィス」からも探すべき理由|セットアップオフィスを探す方へ
(3)原状回復や内装設備、オフィス家具等の契約における違い
「セットアップオフィス」が貸主側の負担で内装や家具を用意しているのに対して「居抜きオフィス」の場合は、前テナントの負担で造作工事したり、動産を調達しているのが通常ですので、これらの設備も権利関係が異なります。
例えば「居抜き飲食店舗」では、「造作譲渡」という形で前テナントから、厨房設備や内部の家具備品等の一式の所有権をまとめて譲渡を受けるという形をとるケースが多く、この場合、自身が退去する際には、次の「居抜き店舗」のテナントへ引継ぎできなければ、スケルトンへの原状回復を行う義務が生じるのが一般的です。
また、厨房機器などは、引き継いでみたらすぐ故障した、といったトラブルが生じるケースもあり、そうした場合の取り決めを契約書面で丁寧に確認しておく必要があります。
居抜きオフィスにおいても、こうした内装、オフィス設備、什器備品等の権利関係が貸主と前テナントの間でどのようになっているのか、また原状回復義務も、何をどのような形に戻すのか、といった点で、物件毎に異なる部分もあるため、入居後や退去時にトラブルにならないように確認することが「セットアップオフィス」よりも多くなるでしょう。
貸主が前テナントから一旦、全ての権利の譲渡を受けて前テナントの原状回復義務を免除したようなケースであれば、次の入居者との法的契約関係は「セットアップオフィス」と同じ内容になるはずですが、前テナントから造作譲渡を受ける場合は、契約関係は3者間になり、やや複雑になるということです。
6.シェアオフィス・レンタルオフィス・サービスオフィス等との違い
(1)シェアオフィスやレンタルオフィスは「スモールオフィス」が基本
「セットアップオフィス」は通常のオフィスと同様に「不動産賃貸借契約」の契約形態ですが、シェアオフィスやレンタルオフィス、サービスオフィス等は一般的に「サービス、スペースの利用契約」という契約形態をとっており、これらは入居後すぐに利用開始できる形態であっても「セットアップオフィス」とは呼ばないのが業界慣行になっています。
なお、シェアオフィスにはコワーキングスペースという1名でも利用できるワークラウンジや半個室のブースがあることが一般的ですが、さらに個室形態の部屋(レンタルオフィス)と併設されたり、トイレや会議室、レセプションがシェアされた個室のみのシェア型レンタルオフィス等、多様な形態があります。
しかし、これらのレンタルオフィスの個室は、もともとが、スモールオフィスのニーズに対応する形態として生まれた経緯もあり、数十名規模の広さがある物件は少ないと言えます。
最近、目にする機会が増えた「セットアップオフィス」からたままたま探し始めて「規模が大きすぎて見つからない」という方には、スモールオフィス向けのシェアオフィス、レンタルオフィスの「多人数向けの個室」がマッチします。
(2)レンタルオフィスの「完全個室」は契約名目に関わらず法的にはセットアップオフィスと同じ
なお、ビルオーナー様側にとっては、契約の名称がどうであれ、法律は実態に即して適用されます。
特に、レンタルオフィスの完全個室(鍵付きで壁に囲まれて、特定の人だけが利用できる状態)は「スペースの利用契約」という名目であろうとも、セットアップオフィスと同様に不動産の賃貸契約と同様の対応が必要です。
コワーキングスペース(半個室型ブースも含む)と「完全個室」では、法律適用が異なるということです。
一方、セットアップオフィスの場合は、内装形態の呼び方はどうであれ、通常の賃貸オフィスの契約なので、法的に疑問になる部分は少ないと言えます。
(但し、家具やOA機器付きのフルセットアップの場合は、動産の賃貸や使用等に関する複合的な契約となります。)
(3)新しい形態の業界用語的な名称につきまとう曖昧さ
現状では、契約内容によって、オフィスの形態をこう呼ばなければならない、という法的な根拠は特段ないとしても、一定のパターンが普及するにつれて、実態として「一般の人に事実誤認させる」ような呼称を使うと、それが法的なトラブルに発展した場合に問題とならないとは限りませんので、「何でも自由に使っても全く問題はない」とは言い切れない部分もあります。
しかし、法律適用が不動産賃貸契約の性質を持つからと言う理由で、レンタルオフィスの「完全個室」だけは「セットアップオフィス」と言うべきか、となると、そもそも、セットアップオフィス、と言う用語そのものも、法的定義がありませんので、どのような呼称を使うかは、貸主側の営業上の都合が優先されます。
法的な定義や業界自主ルールのようなものがない状態では、「事実より優良と誤認させない」という基本ルールの範囲内であれば、どういう呼称でも使えるため、レンタルオフィスにしても、セットアップオフィスにしても、こうした新しいオフィス形態の呼称や定義内容には、曖昧な部分がつきまといます。
シェア型セットアップオフィス
PREMIUMOFFICEシリーズはシェアオフィス、レンタルオフィスのブランドですが、「PREMIUM OFFICE 麹町」は「シェア型セットアップオフィス」とも言える内容になっています。
PREMIUMOFFICEシリーズは基本的にはシェアオフィス、レンタルオフィスなのですが、麹町のみ、契約形態がシェアオフィスの「施設・サービスの利用契約」でなくセットアップオフィスと同じ「不動産賃貸借契約」になっています。
しかし、募集の際には「シェアオフィス・レンタルオフィス」と表示した方がわかりやすいケースが多く、特に法的な用語の定義やルールがないため、ケースバイケースで使い分けています。
7.ビルオーナー様のための業界事情~営業現場に聞いてみた~
最後にセットアップオフィスへのリノベーション等をご検討中のビルオーナー様のご参考になりそうな「セットアップオフィス」に関する情報として、営業現場の社員に聞いてみましたので、ご紹介しておきます。
(以下は、あくまでも特定個人の記憶や感想によるもので事実確認は困難かつ、異なる意見もあるかもしれせんので、ご参考程度に)
(1)営業現場に聞いてみた:その1~「セットアップオフィス」の源流とは?~当初はあまり流行らなかった!?
~営業現場の談話より~
昭和から、次の平成の時代になると、次のようなことが起きた記憶があります。
Sクラス、Aクラスのビルの一部では、高仕様のオフィス内装(会議室や受付等)が残置され、次テナントに承継される事例が多々ありました。
これは、一般的に「居抜き」と呼ばれましたが、通常の居抜きよりも品質が高いもののみが賃料の上昇に影響する市場であり、通常仕様の内装の居抜きは一定のニーズはありましたが(貸主サイドからみれば、居抜きより原状回復した方が高く貸せるであろうから)供給は少なかったと思います。
なお、いつから、誰が「セットアップオフィス」という言い方をはじめたのかは不明※ですが、リーマンショック(2008年)前後から、賃貸人が中古什器業者と組んでデスク等を事前に配置したセットアップオフィスの源流が始まったように記憶しています。
中古業者等にとっては「倉庫兼ショールーム」というイメージですが、この頃は、賃貸相場が悪かったこともあり、あまり流行らなかった記憶があります。
※「セットアップオフィス」の供給量の大半のシェアを持つパイオニア的な事業会社の記事によると、リーマンショック後のハイグレードな居抜きオフィスが埋まって、「居抜きオフィス」が需要に対して不足していたことから、2009年に自社でお金をかけて最初のセットアップオフィスを手がけたとのことです。
その後、2013年前後以降に本格的に大量に供給しはじめた結果、市場での認知も広がり、2018年頃から多くの事業者が参入したようです。
なお、このパイオニア的企業が「自社が最初にセットアップオフィスと言う用語を使った」と言う記事がみつからないため、用語の起源は不明です。
(2)営業現場に聞いてみた:その2~「短期契約ニーズ」を取り込むにはエントランス・クオリティも大事かも!?
~営業現場の談話より~
短期契約ニーズに関しての、最近のリーシングをしている現場の実感としては、以下3つの要素が強いように思います。
①スタートアップ系、ベンチャー系、外資のスタート時等の企業で今後の人員計画により短期で終わる可能性があるテナント
②短期で終わった場合に、身軽に移転が出来るよう原状回復費用や什器費用等を月割りの賃料に均して「費用」として計上する方が良いと考えるテナント
③上記①の属性であるが故に、採用力が弱く、おしゃれな内装と執務環境により採用を有利に進めたいと考えているテナント
③のニーズがあるテナントの場合、「セットアップオフィス」で成約しやすい物件の要件には、エントランス等の共用部のクオリティも問われる状況です。
ビルそのもののエントランスはもちろん、各フロアのエレベーターホールからレセプションまでの来客ルートのクオリティも大事という感じです。
レンタルオフィスやシェアオフィスはビル自体のエントランス等のクオリティまではあまり影響しないのと比較すると特徴的です。
(3)営業現場に聞いてみた:その3~「セットアップオフィス」が成立しやすいエリアとは?
~営業現場の談話より~
セットアップオフィスを探すテナントは特定のエリアへのこだわりが小さいかもしれません。
理由として、スピード、コスト・効率重視、在宅勤務が多い傾向が影響しているように思われます。
また、セットアップオフィスはAクラス立地には少ない傾向が感じられます。
千代田区でも、昭和通りの東側、神田というより淡路町・お茶の水、中央線沿線というより総武線の水道橋エリア等といった地域に多いイメージです。
普通内装オフィスに原状回復して募集したら、供給過多エリアで賃料も安く厳しい、といったエリアで成立するビジネスという印象です。
通常内装のオフィス仕様でも充分に戦えるような好立地のエリアでは、敢えて「相手を選ぶ内装」にするリスクを取る必要性が低い、ということかと思います。