PM(プロジェクトマネジメント)方式とは~CM方式では足りない場合に

目次

1.PM(プロジェクトマネジメント)方式とは?~表記方法について

大規模プロジェクトや公共工事等を中心に、建築プロジェクトのマネジメント手法として一般化している手法が「CM方式」ですが、もうひとつ「PM(プロジェクトマネジメント)方式※」と呼ばれる手法もあります。

この記事では、「用語の定義」をはじめにご説明して、次に「CM方式」の業務内容にふれたうえで、「PM方式」の内容、特徴を説明し、「CM方式」との違いと「PM方式」に期待される業務の本質についてまとめてみました。

(1)プロジェクトマネジメントとは?

「プロジェクトマネジメント」という用語は不動産業、建築業に関わらず、一般的なビジネス用語として使われます。
一般的な広義での意味は下記の意味となります。

▮広義の「プロジェクトマネジメント」
「プロジェクト」とは、一定の期限までに、特定の目的を達成するための業務や計画。
「プロジェクトマネジメント」とは、そのプロジェクトの具体的な計画を企画立案し、品質、コスト、スケジュール、人材その他の投下リソースを管理し、期限内の成果達成を実現するためのコントロール活動です。

(2)不動産・建築系プロジェクトにおける「プロジェクトマネジメント」

不動産業で使われる「プロジェクトマネジメント」という用語は、基本的には上記の内容と同じことを意味しますが、以下でご説明する、「建築プロジェクト」に関するコンサルティングサポートの手法の一つとしての「固有名詞」として使われる業界用語としても一般化しており、表記だけで捉えると紛らわしい用語となっています。

前後の文脈や文章のテーマから、汎用的な「プロジェクトマネジメント」なのか、コンサルティングサービスとしての意味なのかを判別する必要があります。

(3)「PM」という省略表記の紛らわしさ

不動産業界ではない一般の方にとって、さらに紛らわしいのは、「PM」という省略表記です。
不動産関連で「PM」というと、一般的には「プロパティー・マネジメント」の短縮形であることが多く、これは不動産の管理運営業務を現す不動産業界用語です。

同じ不動産用語なのでとても紛らわしいのですが、建築関係の用語として使われる「PM」となると「プロジェクト・マネジメント」という建築マネジメント手法を意味します。

これらの省略用語の使用に際してさらに混乱するのは、業界全体としても明確な短縮形の表記ルールが存在しないため、企業によって同様のコンサルティングサービスを指していると思われる自社事業の説明に「PCM」とか「PJM」等と表記しているケースもあります。

なお、カタカナで「プロマネ」という場合は、「プロパティマネジメント」ではなく「プロジェクトマネジメント」あるいはその業務を担う「プロジェクトマネージャー」のことを指しているケースが殆どです。

(4)「PM方式」と表記する理由

コンストラクションマネジメントの省略系が「テレビCM」とかのコマーシャルの意味と紛らわしいことから、国土交通省が「CM方式」と表記したことから、「CM」は「方式」という日本語をつける慣行が一般化しつつあります。

この記事では、これに倣って短縮表記をなるべく「PM方式」と表示していますが、文脈的に「方式」とつけるのが違和感がある場合は「PM」とだけ表記する場合もあります。

この文章内での「PM」又は「PM方式」という場合は「建築プロジェクトにおけるコンサルティングサービスの手法のひとつ」の固有名詞の意味で使用しており、「プロパティー・マネジメント」の意味の場合は「PM(プロパティー・マネジメント)」とカッコ書きを付記することとします。

なお、「プロジェクトマネージャー」については「PMR」又は「PMr」と表記されることが多いですが、この記事では最後を小文字にした「PMr」と表記しています。

2.CM方式の「境界」とは?

(1)CM方式の業務範囲

CM方式の業務内容を大きく整理してみると以下のようになります。これらがCMrによって達成されることが、CM方式のメリットと言えます。

①ハードの基本性能、品質の確保
・建物のハードとしての品質=耐久性や耐震性等の基本性能
・法令への適合性の確保

②工事の管理
・費用マネジメント(透明性の確保と関係する部分もあります)
・スケジュールマネジメント
・工事期間中のリスクマネジメント

③複雑性のマネジメント
・分離発注方式により参加事業者が多くなり工事マネジメントが複雑化するためこれをマネジメント

④透明性の確保
・参加事業者の選定過程や工事進行状況~公共工事では公共団体が開示できるようなレポートが必要
・価格の妥当性~品質に見合った価格かどうか

(2)「CM方式」にある「業務の境界」

さて、「CM方式の業務内容=メリットとは」という視点でなく、「発注者が不動産のプロに期待することとは」という視点で上記業務内容を見た場合に、何か足らないことに気がつくのではないでしょうか?

例えば、プロジェクト内容が「収益ビル」の新規開発や大規模リノベーションであるとした場合、そのオーナーである「発注者」が、不動産のプロに期待することは何か、と考えるとわかりやすくなるでしょう。

一般的な用語の定義でいえば、コンサルティングサポートの領域を「建築工事」というプロジェクトの一部に限定した業務方式が「CM方式」であり、プロジェクト全体を包括的にサポートする業務を含まないという点では、「CM方式」では発注者のニーズによっては不足する場合があります。

つまり、「CM方式」というものにはプロジェクト全体の有効性、戦略性を営業的、マーケティング的な「不動産のプロ」の視点からプランを企画、立案する、という上流工程での戦略的サポートの業務が含まれていない、これが、表題でいうところの「CM方式の境界」という意味です。

(3)「CM方式」の境界を越えてサポートする「PM方式」

「限界」と言ってしまうと否定的イメージになりますが、CM方式でも発注者のニーズにマッチしていれば全く問題はありませんので、そういう意味で「限界」ではなく「境界」ということですが、このCM方式の「境界」を超えて、プロジェクト全体を包括してマネジメントする手法が「PM方式」です。

但し、双方の手法は、どちらが優れているのか、どちらがより高度なマネジメントであるかという優劣があるのではなく、必要に応じてマネジメント手法を選択、アレンジするうえでの代表的な手法の呼び方として定着しているということに過ぎません。

言ってみれば、どちらも「建築プロジェクトのコンサルティング&マネジメント・サポート」という大きなひとくくりのサービスのひとつということです。

3.「PM方式」とは~「CM方式」との違い

ここからは、このCM方式の内容と比較しつつ、「PM方式」とはどのようなマネジメントか?ということを、もう少し詳しく、具体的に見ていきます。

(1)「PM方式」のサポートスタンス

日本ではPM方式とCM方式の違いについて、明確に法令などで定義されたものはなく曖昧な部分がありますが、概念的に言えば、「発注者の立場に立って最大限、効率的かつ適切な方法により、発注者が期待するプロジェクトを実現させるマネジメント」ということができます。

そして、それを実現するために、PM方式はCM方式よりも前の段階である企画や構想段階からプロジェクトに参画してサポートするというケースが一般的です。

欧米などでは、発注者側の建設マネジメントをPM(プロジェクトマネジメント)、受注者側(施工者)で行う建設マネジメントをCM(コンストラクションマネジメント)と呼んで区別しているようですが、日本の不動産業界では、建築マネジメントのみをCMといい、CMも包含したプロジェクト全体を発注者の立場でマネジメントするのが「PM」という区分で使われるのが一般的です。

(2)「PMr(プロジェクトマネージャー)」の業務

PMrの業務をおおまかに説明すると、まず建設事業においては、発注者の代理人としてマネジメント業務を代行します。

そして、建築計画が発注者のニーズ、希望(予算、期限等)を満たして建設工事が完了するように包括的にマネジメントします。PMrは、事業参加者(設計者、施工者、コンサルタントも含む)の全てを調整しマネジメントすることも期待されるため、「発注者の代理人」ともいえる立場というわけです。

なお、実際には、
①関係者の調整役のみを担当する、②各業務の管理まで担当する、③プロジェクト全体の方向性の範囲で、具体的な業務の決定や変更の承認まで行う、といった業務範囲、権限範囲も発注者との間で合意した範囲で異なります。

但し、上記の①や②のように業務や責任の範囲が部分的であるとしても、「PM」である以上は、プロジェクト全体の戦略的方向性において発注者ニーズとズレないように実現する責務があり、全体戦略に見合った部分毎の適確な方法を選択し実施していくことが求められます。

さらに言えば、費用や期限、リスクのマネジメントといった契約上の責任を超えたところにある「質(工事の完了時点ではすぐにはわからないような)の高い仕事」ができるかどうかが問われる(発注者の満足感を大きく左右する)業務と言えるかもしれません。

(3)2つの手法に優劣はない~ニーズに応じて選択

いずれにしても、「PMr」も「CMr」も、建設プロジェクトにおいて重要な役割を果たしますが、それぞれの役割と責任範囲が異なるため、プロジェクトのニーズに応じて適切な管理手法を選択することが必要です。

そもそも、どちらもこうでなければならないというものではなく、オーダーメイドな性質のマネジメント・コンサルティングのサービス です。

事業の特性(規模や用途、立地等)や期限、予算、事業方針や理念(透明性が必須であるとか、事業ブランディングを表出させたいとか)等に応じて適切な体制や支援業務を発注者との間で協議(プロとしてのご提案を行い)の上で、契約内容を決めるべきものです。

その意味で、手法上の優劣があるのではなく、必要に応じて選択すべきものであり、さらに、PM/CM単独型もあれば、双方を行う混合方式もあるということです。

4.収益ビル等に求められるのはPM方式、あるいはPM視点でのCM方式

(1)公共工事で求められる「透明性」

近年、公共工事でCM方式が多く採用されるようになってきた背景には、「CM方式を中規模工事で採用するために必要なこととは?」の記事でみたように、CM方式の大きなメリットの一つである「透明性」の確保、という要因が大きく関係しています。

もちろん、ハード面における施工品質の確保(法令適合、耐震性、耐久性等)は民間でも公共でも、全てのCMにおいて必ず求められる事項ですが、それに加えて「透明性」の確保がどれだけ重要度が高いか、という理由でCM方式が採用されるのは、公共工事の性格上、当然のことでしょう。

(2)収益ビル等では「透明性」は手段に過ぎない~目的は「資産価値の最大化」

しかし、対象ビルが収益ビルのような場合は、建物のハード面の品質は当然として、「透明性の確保」以上に期待されることがあります。それは「資産価値の最大化」です。

「透明性の確保」というのは、公共工事では「目的のひとつ」ですが、単独のビルオーナー等にとっては「資産価値の最大化」という目的のための「手段」のひとつに過ぎない、という点が異なります。

公共工事では「透明性」が必須事項の一つとなるでしょうが、ワンオーナーの収益ビルであれば、極論すれば、自分が納得できるなら「透明性」にこだわる必要もありません。

(3)「資産価値の最大化」のために必要なことは?

収益ビルの工事後の稼働率のような条件は、ハード的な問題でない限り、CMも参加事業者も責任リスクを負う訳ではありませんが、マンションの大規模修繕のように、建物の耐久品質がしっかりしていればそれでいい、というものではありません。

つまり、賃貸ビルや商業ビルのような事後の運用収益を目的とした不動産の工事では、完成後の運用(収益ビルであればテナント集客のしやすさ、商業ビルであれば、賑わいを創出しやすさ等)がいかにやりやすいプランとなっているか、ということも期待されていると言えます。

CMrの業務範囲としては、そこまでの責任リスクは負えない、としても、工事のプランニングにおいては、不動産のトータルなノウハウを持つプロとしてマーケティング的な視点からも望ましいプランを提案してほしい、と期待されるのは当然の事と言えるでしょう。

発注者からすれば、契約上の責任を負うかどうかではなく、「マーケティングセンス」もあるCMに依頼したい、という気持ちの問題です。

つまり、こうした工事や発注者にとっては、表面的な契約が「CM方式」かどうかよりも、プロジェクト全体の品質(品質という意味は、ハードだけではない不動産のバリュー全て=資産価値の最大化)を高く実現してほしい、ということであり、単に「CM方式」を採用したいのではなく、限りなく「PM方式」に近いレベルで不動産のプロに任せたい、というのが本音ではないかと考えられます。

実際に、表面的には「CM方式」の契約であっても、実態としては限りなく「PM方式」に近いレベルの包括的なプロジェクトへの関与を期待されながら、契約上の責任範囲としては「CM」として参画するケースもあるでしょう。

(4)「建築の技術的専門知識」だけでは不足するケースもある

責任範囲がどうかという契約上の責任を超えて、CMの立場でも「不動産の運用マネジメントとしての「PM(プロパティー・マネジメント)」の経験、ノウハウの有無が工事内容を左右するケースは実際に存在します。

分かりやすい例では、設計における見た目のデザインの選択をどうするか、ということがありますが、目に見えない部分でも、例えば、店舗テナントビルの水回りや配管の設計において、費用も法令も要求範囲に収められる位置が複数パターンある場合、どの位置に設計すれば、よりテナント募集に有利か、といったことは、技術的な知見を超えた営業的な経験がものを言います。

また、中規模ビルの場合で、オフィスの面積が50坪前後しかない場合に、トイレブースをいくつ設けるべきか、ブースが少ない方が執務面積を広くして工事費も圧縮できる、という視点だけで採用すると、実際は竣工後にテナント募集で苦労する、といったこともありがちです。

一見すると、建築工事自体の成否を大きくは左右しないような要素で工事費用を圧縮すると、結果として、それがテナント募集に大きく左右する要素の一つだったりするため、設計時点で「CMr」が発注者に「PM (プロパティマネジメント)」的な視点でアドバイスできるかどうか、目先の工事費用の僅かな圧縮よりも運用面のメリットに基づく修正提案ができるかどうか、といった「PM方式」の視点やノウハウを持った「CMr」が求められていると言えます。

収益ビルのオーナーが発注者であれば、契約としては「CM方式」であっても、「建築の技術的なノウハウ」だけのCMrと「建築技術+運用マネジメントのノウハウ、マーケティングセンス」の両方があるCMrのいずれに依頼したいか、と言えば、後者であるのは明らかです。

このように、高度で深い知見、マネジメント力を必要とする業務だからこそ、「CMr」に従事している人であれば誰でもいい、ということではなく、発注者側のニーズやプロジェクトの具体的な内容に応じた経験、ノウハウ、知見が豊富な「CMr」が担当してくれることが望まれます。

5.「PM方式」に求められるものとは?

(1)発注者側の過大?な期待

前段で「不動産のプロに期待すること」という表現をした箇所がありますが、発注者の多くは「CM方式」の担当が技術面のプロであることは当然として、不動産に関わる業務のプロは専門が技術系であろうとも、不動産全般において少なくとも自分よりは、はるかに詳しいプロであるはず、と期待します。

確かに、全くの素人の発注者の場合に比べれば、少なくとも不動産関連の業務に従事する人の方がはるかに不動産の知識も豊富ですが、「CMのプロ」が「不動産全般の全ての業務に精通した最高位のプロフェッショナル」ではありません。

そして、実は不動産の世界は、「不動産のプロ」という言い方でひとくくりにできるほど、シンプルで簡単なものではないのです。

(2)営業(プロパティマネジメント等)経験のある専門技術者は多くはない

実は、技術系のノウハウと、営業系のノウハウは、相互に関連しつつも、その本質はかなり異なる部分があり、同じ不動産業と言えども、その両方を高度なレベルでマスターするというのは容易なことではありません。

そして「PM方式」で求められるのは、この技術系と営業系の両方のノウハウ、スキル、センスであるケースが多いのです。

しかし、技術系のマネジメントサポートができるだけの知識、ノウハウを習得するだけでも大変な能力と勉強、経験が必要ですし、一旦その業務に従事すると、その道の専門家としての業務に忙殺されるため、「PM(プロパティー・マネジメント)」業務のような運用管理の専門的な業務を経験することは稀です。

むしろ、技術面の能力が高ければ高いほど、専門的な分野に従事しますので、マルチな業務経験というのは意図してやらない限り難しいと言えます。

むしろ、一級建築士の免許は持っているけれど、設計業務には従事せずに営業系の業務に従事していたような人の方が、技術にも営業にも明るいマルチなノウハウを習得していたりするケースが多いと言えます。

(設計が好きな人と不動産営業の好きな人はタイプが異なる傾向があり、建築の技術的専門家が資格があるにもかかわらず、自ら進んで営業の仕事をする人は少ないでしょう。)

(3)「全能」な「PMr」はいない

しかしながら、PMrの役割は、その全ての専門的で深い技術的な知識をPMrが保有していなければならない、ということではなく、事業に必要な事業参画者を集めて、その事業者全てが的確に実力を発揮できるようにチームマネジメントすることです。

求められる業務の内容を読むと、まるで、「建築に関する技術も営業も何でも知っている万能プレイヤー」かのようになってしまいますが、PMr自身が「万能」である必要はありませんし、また、そんなプレイヤーはどんな大手PCM企業であろうとなかなかいないはずです。

(4)「マルチな能力」は必要

今までの内容からお分かりの通り、高いレベルの建築技術的な深い専門知識が必要な業務ですが、それだけでは「PMr」はできないこともご理解いただけたものと思います。

「PMr」には、プロジェクトの内容によって、求められる業務分野のノウハウの軽重が異なってきますので、それにマッチした事業者を見極めて集めるアレンジ能力と調整力が重要です。

「PMr」自身が一定レベル以上の技術面、営業面での広範囲なノウハウ、知見と豊富な経験を持ちつつ(これが企画立案力の基礎となります)も、こうした参加するメンバーの専門的実力や適正を判断したうえで、事業に必要なチームを編成できるだけの、業界人脈やノウハウ、知見、マーケティングセンスが問われる、そして参画した事業者にいい仕事をしてもらうための、非常に泥臭い調整、コミュニケーション能力が必要な業務です。

そういう意味では「全能」である必要はありませんが、建築技術面の深い専門知識に加えて、ある程度の「マルチな能力」を求められる、高度なプロフェッショナル業務ということはできるでしょう。

6.長期的な資産価値はプロジェクト戦略が左右する

(1)不動産開発も事業としての「戦略」が重要

イベント会場等の一時的な建築物を除けば、通常は超長期の運用、利用を想定した建築プロジェクトとなります。
つまり、不動産の開発というものは一種の「長期的な事業」のための「器」を作るプロジェクトです。

この「事業」の成否は「戦略」にかかっているのと同じであり、「戦術」は「戦略」の方向性に従って選択されるものです。
これは不動産の建築プロジェクトにおいても同じことです。

事業の「器」を作る「建築プロジェクト」という最初のステージにおいても「戦略の方向性」は極めて重要ですが、最終的なトータルな資産価値という視点でも、この初期段階の「プロジェクト戦略」が大きく影響します。

(2)最初の「戦略」がトータルな資産価値を左右

例えば、コスト面でいえば、企画・設計の見直しによるコストダウンの効果は事業の初期段階であるほど効果が大きく、逆に、設計変更に伴うコストアップ・リスクは事業が進むほど高くなってしまいます。

そして、「事業の器」たる建築物が完成したあとの利用段階における「ライフサイクルコスト」まで含めたトータルなコストも、初期の企画段階の検討=「プロジェクト戦略」に大きく左右されます。

つまり、最初の「プロジェクト戦略」は、プロジェクトのみならず、最終的な不動産の資産価値の大きさに大きな影響を与えるものとなります。

「PM方式」も「CM方式」も建築プロジェクトのマネジメントではありますが、建築物全体の長期的な価値を大きく左右する「プロジェクト戦略」の企画立案段階から専門家のサポートを受けたい、という場合は「PM方式」が適していると言えます。

(3)「費用」でなく「投資」という視点で

「プロジェクト戦略」が固まった後の「CM」では、コストマネジメントは基本的な要件を満たす範囲での圧縮や予算内に収めることが主な目的になることが多いかもしれませんが、「PM」によって「初期プロジェクト戦略」にまで関与する場合は、プロジェクトそのものの総工費が高いプランであっても、ライフサイクルコストや運用収益性の観点からそちらを推薦するケースもあり得ます。

それだけ、建築コストの総額よりも運用後のトータルランニングコストや事業収益の方が資産価値を大きく左右する可能性が高いからです。

しかし、いずれの方式にしても「PM/CMフィー」が必要であり、コスト増加要因として導入を躊躇する心理的なハードルとなるかもしれません。

手数料的な支出は、余計な「費用」が発生しているように感じるかもですが、プロジェクトの内容によっては、大きな「投資」的効果(かけた費用の何倍もの資産価値向上に貢献する効果)を期待できるものであり、そこに目を向けて先を見ることで検討しやすくなるのではないでしょうか。

※中小規模の複数ビルを多数所有してビル賃貸事業を行っている不動産会社、ビルオーナーも珍しくはありませんが、そういう中には、社内人材が運用管理を自ら行い、また、技術面の知識もある人材も何人かを抱えていて、「PMr」を自らが行い、設計会社やゼネコンを自ら選定してビルを開発するということを普通に行っています。

また、そこから発展させて「自社保有ビルの運営」と「ビル管理事業」、「設計事業」の3つの事業を行っている形態の不動産会社もあります。

社員規模としては中小企業でも、自らが運用の主体として長期的な実績や経験を蓄積しているので、プロジェクト全体のマネジメントは自社の社員が担当しており、これは、ある意味「PM方式」を外部コンサルに委託せずに自らやっている事例です。

一方で、東京都内の中小ビルのオーナーは、1棟か2棟前後しか保有していないケースが殆どという調査結果もあり、そういう個人、家族経営のビルオーナー様で、適切な工事関連のアドバイスをもらえないレベルの管理会社に運営を委託していたりすると、いざ改修、建て替えを行おうという際には、自らは営業ノウハウも、技術的なノウハウも不足する中で中小ゼネコン等に一括丸投げせざる得ない、ということになりがちです。

この場合、いかにマーケティングセンスがある設計事務所を選ぶか、いかに良心的で技術力のあるゼネコンを選ぶか、ということを自らが行う必要がありますが、運任せになってしまうこともありがちです。

実際に、中小規模の中古ビルで「なぜこういう設計、施工になってるのだろう」といった残念な仕様のビルを見ることは珍しいことではありません。

中小個人にとって不動産という資産は大きな比率を占める重要な資産です。稼働率が低い原因が改修不能なハードの要因にある場合は、建物本来の耐用年数を迎えていないにもかかわらず、建て替えを余儀なくされるケースもあります。

長期的視点でみて「PMフィー」や「CMフィー」をかけてでもオーナーサイドに立って専門的で適切なマネジメントを提供してくれるサービスを導入することで、同じくらいの総工費であったとしても、結果的に、より高い運用収益を上げる、長期に高い稼働率を維持できるということで、追加でかかった手数料をはるかに上回るような資産価値の増大につながるかもしれません。
(実際に、そうした事例は数多くあります。)

PMこぼれ話~国家的プロジェクトの失敗レポートにみる「PM」の難しさ

実は世界でも類を見ないような国家的巨大プロジェクトの失敗事例を検証したレポートというものがあります。
そう、東京オリンピックで白紙撤回された「新国立競技場」に関する検証レポートです。
国民の誰もがこれを読むことができるようにネットで公表されていますので、全部読むのは少々しんどいですが、「PM(プロジェクトマネジメント)」に関する理解も深まる貴重な資料なのでご紹介しておきます。

このレポートにあることが全てなのか、真実はどこにあったのか、といったことは読まれたかたのご判断にお任せしますが、公式な検証レポートに書かれている「PM」に関する記述の箇所等は参考になる部分です。

このプロジェクトの失敗の要因は複雑すぎて真実はよくわかりませんが、「PM」という視点から見ると、いろんな疑問がわいてきます。
日本有数のPM/CMの参加もあり、事業者も一流の大手ばかりが参画しながら、なぜこのような結果になってしまったのか?
東京オリンピック誘致のための「派手なデザイン」を先行したいという事情が強すぎたからか、建築プロジェクトとしての最も重要なスタート時点のプランニング戦略過程が大きく歪められたことに本質的な失敗の原因が集約される気がします。

そのもっとも端的なプロジェクトマネジメントの歪みの構造は、デザイン案のコンペの体制に集約されています。
これだけの巨大なプロジェクトにもかかわらず、通常では考えられないような時間に余裕のないコンペ期限の設定、また、普通のプロジェクトであれば絶対的条件であるべき「実現可能性」という評価項目があり、驚くべきことに、「実現可能性」が疑われるような案でもコンペ(入札)に参加出来て、それを採点する項目に入れる、というコンペ条件は一体だれがどのような経緯で決定したのか?

失敗の過程を見てきた今なら、「実現可能性(費用的にも)」に疑義があるデザインプランはまず一次選考で全てを却下し、最終選考項目ではもはや「実現可能性」の評価項目自体が不要となるようなコンペ方法ができなかったのか?と思われるような内容です。
また、発注者に専門的知識、ノウハウが不足しているのに対する「PM」の役割が「有識者委員会」であったとすると、専門家が安藤委員長のみという構成も極めて不自然です。つまり、「実現可能性」において1位ではない案でも選定してもよいというコンペ条件を設定し、さらにその優勝者をPMとしての責任を持たない「有識者委員会」の委員長に決定させたという過程も、本来のPMの役割、責務からすればおかしなことです。
今から思えば、発注者の下にデザイン案だけではない「実現可能性にも責任を負うPM」が真に機能していれば、あのような「コンペ条件」の設定にもならなかったかもしれないし「有識者会議」のメンバー構成も変わっていたかもしれません。
結局のところ、オリンピック誘致とその利権が絡む政治問題が深いところで様々な歪みを生じさせて、本来あるべきプロジェクトのあり方から乖離したまま迷走した、というように感じられます。
明らかな大きな教訓としては、経済情勢によっては、あれだけの一流の専門家が集まっても、過去に例のない巨大なプロジェクトのコストを短期間で試算するという作業が極めて難しい、ということでしょう。(これは、今の)

新国立競技場整備計画経緯検証委員会「検証報告書」

7.プロジェクトに適した「PMr」や「CMr」の探し方

(1)大企業には豊富な人材が在籍しているけれど

大手CM、PM会社であれば万能人材が豊富ということではなく、豊富な人材構成によって、多様な不動産に適したチーム編成をすることができる、また、大手ならではの豊富な実績と経験というものを組織的に共有していることによる、従業員のレベルの底上げも可能、といった点が大手の強みと言えます。

裏返せば、その大手企業が経験、実績を蓄積していないような分野、規模の不動産であれば、必ずしも、最適な「PM」ができるとは限りません。

特に大規模事業に特化してCM方式やPM方式のコンサルティングを受託しているような大企業であれば、フィーの総額が小さい中小規模のプロジェクトの経験者が少ない、あるいは「不動産運用の営業経験」の組織的な経験値の蓄積が無い、というケースもあるかもしれません。

大手企業だからオールマイティーに何でもできる、とは言えない難しさがある、というのが不動産なのです。

(2)営業センスは「営業経験」によって磨かれる

「営業センス」というものは収益不動産というカテゴリでは特に重要です。

例えば、空室に困ったことのない好立地で稼働率の高いビルのマネジメントしか経験がないという人や企業では、中小規模のビルの空室対策の「機微」がわからないかもしれません。

「苦労しない」ということは、成功のための「トライアンドエラー」の機会が無い、ということであり、よほどの天才的な一部の人を除けば、自らが苦労する機会がないと、人にアドバイスできるような営業センスを磨くのは難しいことです。

なお、多様な不動産の全ての分野を経験することはできませんが、技術的な知見と異なるのは、営業上の苦労、ノウハウは、「センス」というスキルが磨かれることで、異なる種類の不動産にも応用できる能力、感性として身につく部分があります。

技術系の人は自ら営業経験をすることは少ないため、むしろ大企業よりも、中小企業で営業系の業務も行っており、日常的に営業系の人の苦労を身近にみたり、相談を受けるような人の方が、同じ技術系の専門者であっても、営業系のセンスは磨かれやすい環境にあると言えます。

ただし、資本力や人材が豊富な大手企業で、CM方式だけでなく「PM方式」の受託を推進しているような企業では、意図的にそうした人材が育つような組織構築、運営を行っていますので、そうした先であれば、期待する「PMr」を派遣してもらえる可能性が高く、そこに発注できれば安心と言えます。

(3)「PMr」を探す方法

一方で、そうした大手著名コンサル企業に依頼できるかどうかは手数料水準が予算として組めるかどうかという問題があり、結果として、こういう企業の実績事例では、予算の大きい大規模プロジェクトが殆ど、というケースが多くなりがちです。

中規模以下のビルにおいて「PM方式」を採用しようとする場合、限られたフィー予算の中での「優秀なPMr探し」が課題となります。

個人オーナー様などにとってはとても面倒なことですが、大手であれ、中小であれ「PM/CM」サービスを提供している事業者は、それぞれ規模や種別の得意分野が異なりますので、そうした特性を過去の実績などから調査して、発注者自身の期待にマッチしそうな複数の先をピックアップし、プロポーザルをもらって選定するという過程は、自らが行う必要があります。

従来は、信頼できる不動産関係の知人や管理会社等が身近にいれば、紹介してもらうということが殆どだったと思いますが、最近では、当社も含めてこうした事業のサービスを提供する企業は積極的にWEBサイトで過去実績等を公表、発信していますので、そうした情報からもセレクトして、相談してみるということも可能な時代になっています。

(4)「PMr」が機能するために必要なこと

どんなに優秀なPMが参画したとしても、発注者側に合理的な判断、決定を歪める強い要因があるとPMも万能ではなくなります。

例えば、東京オリンピックの新国立競技場の失敗事例のように、発注者側に政治的、利権的な複雑な要因がからんで、本来あるべきプロジェクトの形や進め方ができない場合は、あれだけの一流のメンバーが集まってもプロジェクトが頓挫することもあります。

この複雑で特殊なプロジェクトを成功させられたPM(=政治家と利権に群がる事業者の全てを黙らせて、本来あるべきやり方を最初から最後まで貫けるというPM)は、現実的には存在しないかもしれません。

この反省すべき歴史的な教訓をもってしても、国家事業のような特殊なプロジェクトで「政治的、利権的」な抗いがたい圧力があると、PMは所詮は雇われる側としての限界があるため、歴史は繰り返される可能性があります。

どんな困難や事情も乗り越えてプロジェクトを成功させるのが「PMr」の役割だという理想論はさておき、「CM方式」であれ「PM方式」であれ、発注者との力関係を考えれば、現実的には「できることに限界は存在する」というべきかもしれません。

発注者サイドにも「PM方式」のメリットを十分に引き出すための理解、意識、判断力、決断力、発注者が組織であるならば、その組織の理念や体制も問われます。

「PMr」を探すうえで、まずは発注者としての意識や体制の確立と方針をしっかり固めておくことが大切です。

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プラン内容が収益ビルの稼働率を左右する事例

具体的に工事のプランが竣工後のPM(プロパティマネジメント)の難易度を左右する、という事項は数多く存在します。
法令に沿って設計施工され、建物のハード的な品質も問題ない、としても、竣工後にいつまでたってもテナントが埋まらない、想定よりも大きく賃料を下げざる得なくなった、ということでは、契約上の責任を果たしていたとしても、発注者の期待、真のニーズに応えたられたかどうか、という視点から評価すれば、そのCMは失敗だったと言わざるを得ないでしょう。

細かい例でいえば、店舗フロアの水回りや配管の位置をどこにしておけば、テナントが使いやすいレイアウトになるか、といったことを、必ずしも設計担当事業者が経験不足で的確に配置できていないケースもあります。
店舗ビルのPM経験まであるCM担当であれば、技術的な視点からだけではなく、こうした事後的なPMのマーケティング視点から、設計プランへの適切なアドバイスが可能です。
中規模商業ビルでは、店舗区画を小さく分ける例もあり、そうした場合の水回りや配管の位置が悪くてテナントがなかなか決まらなかった、という事例は実際にあります。店舗系のベテランPM担当であれば、こうしたことにも設計時点で気が付くものです。
また、個性的なデザインにし過ぎて、テナント集客が難しくなったり、維持管理にコストがかかりすぎたり、といったことの判断ができるかどうかは、多くの実際の経験がものをいう、ということが多々あるのも不動産です。

収益ビルにおいては、どのようなハコを作っておけば、稼働率が高く安定稼働するか、というのは長年の経験で培われて身に着いた「現場の実戦的な知識」と「マーケティング・センス」がないと判断できません。
ファンドのように発注者がPMのプロで、ある程度のことを知っている場合は、その方針、戦略に従うプラン策定でいいかもしれませんが、ビルオーナーがそこまでのプロではない場合は、不動産のプロたるCMには、発注者にアドバイスできるだけの力量、ノウハウが欲しいところでしょう。

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